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死ねない魔女と死にたい王子の婚約譚  作者: 国城 花
第一章 出会いと婚約
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1話 婚約者探し


「これ、本当に出席しないとだめか?」


机の上には、10枚以上はある釣り書きが置かれている。


「第二王子の責務とお考えください」


側近にすげなくされ、エドヴァール王国第二王子であるアルノルドはため息をつく。


「婚約者探しの夜会か…」


目の前に積まれている釣り書きは、その茶会に出席するご令嬢たちのものである。


「兄上が結婚されてしまったから、逃げづらくなってしまったな」


第一王子である兄が結婚した今、次は第二王子だと臣下たちにせっつかれているのだ。


「殿下のお年を考えれば、今まで逃げていられた方がおかしいのです」


アルノルドは19歳なので、普通の王族であれば婚約者がいる年齢である。

しかし、アルノルドは幼い頃から婚約者を持つことを固辞してきた。


「茶会の開催は決定事項です。もう逃げるのは無理かと」

「冷たいことを言うなよ、ユーリ」


第二王子の側近であるユーリーンは、自他共に認める冷たい視線を主に向ける。


「茶会の開催は3日後です。第二王子として、出席しないということはあり得ません」

「だがな…」


アルノルドは、困ったように頬杖をつく。


「先がないのと分かっているのに、婚約者にさせられるのは酷だろう」

「殿下」


アルノルドの言動を咎めるユーリーンに、大丈夫だと軽く手を振る。


「部屋の近くには誰もいない」

「万が一ということがあります。言動にはお気をつけください」

「そうだな」


アルノルドは、窓の外の澄んだ青空を眺める。


「第二王子が死にたいなんて、聞かれたら困るからな」




茶会当日。

招待状を送られた貴族令嬢たちが、王城の庭園に集まっていた。


気合の入った色とりどりのドレスに、多少の緊張を隠す微笑み。

今回の茶会は婚約者探しと銘打っているわけではないが、第一王子が結婚したタイミングで第二王子が茶会を開けば、そういう意味と捉えられる。


『公爵家の娘に、宰相の娘、騎士団長の娘…』


遠くから令嬢たちの姿を確認したアルノルドはため息をつく。


「勢ぞろいだな」


アルノルドと同年代で婚約者のいない貴族令嬢と言えば多くはない。

そのほとんどが顔見知りの中で、1人だけ知らない令嬢がいた。

白銀の髪を背中に流し、淡い空色のドレスを着ている。

他の令嬢たちとは距離をとり、1人ぽつんと立っている。


「ルエルト侯爵家のセシーリア嬢です」


そっと耳打ちして教えてくれるユーリーンに感謝し、納得する。


「ルエルト侯爵が養女にしたという娘か」


ルエルト侯爵家はエドヴァール王国の中でも歴史のある侯爵家である。

しかし最近、現侯爵が素性の知れない娘を養女にしたのだ。

現侯爵には子供がおらず、跡取りは甥に任せるという話だったので貴族たちは驚いた。


「立ち居振る舞いを見ていると、他の令嬢たちと遜色ないな」

「ルエルト侯爵の隠し子という噂もありますが…」

「それはないだろう」


ルエルト侯爵は愛妻家で有名なのだ。


「ルエルト侯爵家の人間は人が良いからな…騙されたとかじゃないといいんだが」

「貴族の多くは、そこを心配しているみたいですね」


ルエルト侯爵家は貴族平民誰に聞いても「人が良い」と返ってくるほど、お人よしで有名なのだ。

行き倒れている平民を自ら助けたり、腹を空かせている子供がいれば自らの食料を差し出す。

困っている人がいれば見返りを求めずに助けるので、たまに盗賊に騙されるようなこともある。

それでもその盗賊を恨まず「誰も怪我をしなくてよかった」と言っているのだから、筋金入りのお人よしである。


「今回は殿下の婚約者の座を狙うというよりは、社交に慣れさせるために参加させたのでしょう」

「本人に社交をするつもりはなさそうだけどな」


他の令嬢たちを遠巻きにしており、会話に加わるつもりはなさそうである。



「殿下。そろそろお時間です」

「分かった」


アルノルドは一つ息をつき、庭園に向かった。



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