64.ザングリッド軍政国
小町達はすぐに新潟に向かった。
アデスとドグドは嬉しそうにしていたのでよかった。
シゲ爺には刀の稽古をしてもらいたかったがしょうがない。
僕達はいつも通り生活をしつつ、ランヴォックさん達の世話をした。
国奪還の協力はできないが、情報は欲しかったのでランヴォックさんと世間話をした。
ザングリッド軍政国は十数年前から周辺国に戦争仕掛けては領土を広げていたらしい。
東側の国々は手を取り合って連邦国になり、ザングリッド軍政国も手が出しにくくなった。
なのでデレメメ王国を含む西側の国に戦争を仕掛けるようになった。
何か国かは敗戦し併合されたが、なぜかデレメメ王国とイジュ王国は併合されずに属国に。
王族はスオンさん以外全員殺され、デレメメ王国とイジュ王国はザングリッド軍政国の将軍が治めている。
そしてアクレ王国という国が今もザングリッド軍政国と戦争をしているらしい。
ザングリッド軍政国は大将軍ザルグリッド・ドラグニスが治めている。
その部下に将軍が5人居て、そのうちの1人が海賊を率いているボルドスラフ提督。
ザングリッド軍政国との関係性が無いと思っていたのに、将軍の地位を与えられるぐらいしっかり配下だった。
僕は思ってたよりも情報を得られて満足した。
「ランヴォックさん達はこれからどうするんですか?」
「海賊に連れて行かれた国民を助けたいが……」
「海上の戦闘を海賊とするのは厳しいですよね」
「ああ。出発までには作戦を練るつもりだ」
ランヴォックさんは真剣な表情で言った。
▽ ▽ ▽
夕食前、クリフが焦ってやってきた。
「テツジ様!船が見えました。3隻です」
「え!」
「かなり距離はありましたが、この島に気付くのも時間の問題だと思います」
「そうか…」
「今夜は電気の使用は禁止。あとでランヴォックさんにもその情報を伝える」
「わかりました」
僕は悩んだ。
人との戦闘は正直やりたくない。
でも島を守るためには、海賊と戦わないとだめだ。
悩んでいる僕を見て、ザンは口を開いた。
「テツジ様、私達は戦えます」
「え?」
「人との戦闘に抵抗がありますよね?」
「…うん」
「その抵抗の部分は私達に任せてください」
「え?」
ザンは真剣な表情で僕を見る。
「私は人を殺めた事があります」
「え?」
「盗賊を冒険者時代に何人も殺めています。日本では考えられないかもしれませんが、この世界では殺さなくてはいけない時があるんです。悪意と対峙した際、情けをかけてしまうと別の場所に悪意が向いて誰かが不幸になります。悪意は滅さないといけないのです」
ザンの言っていることは理解できた。
だけどすぐに順応するのは難しい。
甘い考えかもしれないが、モンスターを殺すことと対話のできる人を殺すことは僕にとっては大きく違った。
「ザンの言ってることはわかった。でも僕は殺したくない」
「ですのでその役目は私がします」
「ううん。ザンもできるだけ殺しはしないで。家族が危険になったときはしょうがないかもしれない。だけど殺すつもりで戦闘を始めることだけはやめて」
「ですが……」
「ごめん。でも従って」
僕はまっすぐザンを見た。
「わかりました。殺しをせずに無力化をする作戦を考えましょう」
「うん。一緒に考えよう」
僕とザンはランヴォックさんの元へ行った。
▽ ▽ ▽
翌朝。
クリフに起こされた。
「テツジ様。船が島に向かって来ています」
「あー。何隻?」
「2隻です。1番大きな船は沖で止まっています」
僕は気合を入れ直した。
「みんなに戦闘準備をするように言って。ランヴォックさん達にも連絡!」
「わかりました」
そう言うとクリフはすぐに動き出した。
僕はすぐに海岸に向かう。
昨夜、ランヴォックさんと話をした。
騎士達と協力して、海賊と戦闘する。
プロールとペペンとエレには集落でスオンさんの護衛。
そしてポーションなどの補給を担当してもらう。
スオンさんを集落に入れるのは抵抗があったが、騎士達が全力で戦うためにはそれしかなかった。
クリフとドルンは遠距離攻撃担当だ。
サハギンの時と同じような役割だ。
海岸には僕とザンとマオだ。
海岸の戦力が少ないのは理由があった。
プンとダルンとデルンとジラには海斬丸で海上戦をしてもらうからだ。
今後、海での戦闘があったときのために海斬丸の性能を知っておきたいとプンに言われた。
オクトンとカーレには沖にいる船を見にいってもらう。
海賊の戦力がその船に多い様なら、船を破壊するように伝えている。
「テツジ。巻き込んでしまってすまない」
「いえ、海賊が島の近くにいるのは知っていたんで。それに奥の手はあるので」
ドン!ドン!
ランヴォックさんと話していると、海賊船から砲弾が飛んでくる。
砲弾は島に届かず、手前の海に着弾する。
ダルンからこの世界の大砲については聞いていた。
鉄や石の砲弾を火薬や魔法で飛ばすもの、砲弾に火薬が入っているもの、砲弾がマジックアイテムになっているもの。
海賊が使っているのは鉄の砲弾を火薬で飛ばす危険度が低めのものだった。
しかも飛距離や命中精度が悪い。
そんなことを考えていると、海の中から男性が現れて岸に上陸した。
男性の姿は異質だった。
関節が多くて長い腕が4本あり、肌は鱗のようなものが付いていた。
「あーやっぱり。騎士団長ランヴォックがいるってことは、襲ってきた船に乗ってたのはデレメメの生き残りか。こいつらの首を持って行けば褒められるかもな」
男はランヴォックさんをニヤニヤ見る。
そしてザンに視線を移した。
「それに龍人族もいるとは、良い土産になりそうだ」
「土産になるつもりはない」
ザンは答える。
「あ?生意気だな。ん?てかちょっと前に奴隷商の馬鹿が龍人族を捕まえたと言っていたが、お前か?」
「知らん。そんなことよりもお前は何者だ?」
ドゴン!
「「「ぐわああ!!」」」
ザンが問いかけた瞬間、騎士達の叫び声が聞こえた。
叫び声の発生した場所は砂埃が舞っていた。
砂埃の遥か上空には、翼の生えた獣耳の男が飛んでいた。
翼の生えた男は4本腕に向かって叫ぶ。
「おい!デュドド!チンタラやるな」
「あ?勝手に始めんなよ!ズラヴィク」
翼の生えた男はズラヴィク、4本腕はデュドドと言う名前みたいだ。
「寄り道が長すぎる。早く全員殺して仕事に戻るぞ」
「だけどよ!船でちょっかい出してきた奴らがデレメメの騎士だったら話は違うだろ?」
「あ?デレメメの騎士?」
ズラヴィクは俺達を見下ろし、ランヴォックさんを見た。
「ランヴォックかこいつは生け捕りだ」
「は?なんでだよ!」
「捕虜にしていた騎士をあの女に奪われたとき、あれが盗まれた」
「は?聞いてねえぞ」
「船長と俺しか聞かされてない話だ。ぐっ!!」
ズラヴィクが話している最中に、クリフのスナイパーライフルが翼を貫いた。
「グロロロロ!!面白い事をしてくる奴がいるな。デュドド!ランヴォック以外は全員殺せ」
「元々そのつもりだ」
ズラヴィクは弾が飛んで行った方へ向かい、デュドドは騎士達に攻撃を始めた。




