56.ザンの秘密
みんなにシゲ爺の話を共有した後、僕と小町とシゲ爺はザンに呼び出された。
「どうしたの?」
ザンは頭を下げた。
「テツジ様、コマチ様。隠し事をしていて申し訳ありませんでした」
「今回は僕達が困るような隠し事じゃなかったから許すけど、今後はやめてくれよ」
僕がそういうと、ザンは気まずそうな顔をした。
「まだなんかあるの?」
僕はシゲ爺を見た。
「わしは知らないぞ」
シゲ爺は首を横に振った。
「実はお呼びした理由がそれなのです」
「何か秘密が?」
「はい。この話を他のみんなに伝えるかも迷っていまして……」
ザンの様子から、だいぶ大きな話なのだろう。
「先ほどのシゲ爺様のお話に出てきた妖人族と共に戦った者の中に龍人族がいたとおっしゃってましたが、それはゴフェルという名前ではなかったですか?」
「お?そうじゃが、知り合いか?」
「はい。私の高祖父です」
僕は高祖父がわからなかった。
小町が口を開く。
「ん?高祖父って、ひいひいおじいちゃんってこと?」
「そうじゃ。まさかザンがゴフェルさんの玄孫とは。ゴフェルさんはまだご健全か?」
ザンは気まずそうな表情になった。
「何から話せばいいのでしょうか。まずは約15年前、龍人族が住む魔人領で反乱が起きました」
「反乱?」
「はい。魔人領は大罪の悪魔のスキルというものを取得した7人が国を治めるのです。そしてその7人から魔王が選ばれ、残りの6人は幹部として働きます」
「そういえばゴフェルさんがそんなことを言っておったの」
「ゴフェルおじい様は『怠惰の悪魔』というスキルを持っていて、幹部として龍人族や他種族が住む諸島を治めていました。ですがある日幹部の2人が反乱を起こしたのです」
シゲ爺の話に続いて予想外の話過ぎて、僕は理解しようと必死だった。
「ゴフェルおじい様は当時の魔王様の味方をしました。ですが反乱を起こした2人には強力な協力者がいたみたいで、魔王軍は敗北しました。それ以降魔王様と暴食の悪魔は行方不明に、憤怒と色欲の悪魔は大けがを負いました」
「そんなことが……」
「争いが終わってすぐ、ゴフェルおじいさまは龍人族の里に現れました。そして当時15歳だった私にある物を渡しました」
「ある物?」
ザンは頷いた。
「怪我をした色欲の悪魔が入った、怪我を治すマジックアイテムです。色欲の悪魔は正体不明の攻撃を受け、スキルを改変されました」
「ん?」
僕は何かが引っかかった。
「スキルを改変?なんてスキルに改変されたの?」
「『純潔の悪魔』です」
「……ということはアデスが」
「はい。色欲の悪魔で魔人領の幹部でした」
僕の脳は衝撃に耐えられず混乱した。
「アデス様は当時10歳で幹部になりたてでした」
「ん?じゃあアデスは25歳なの?」
「いえ。怪我を治すマジックアイテムは不完全なもので、身体の時間を止め、一時的な記憶障害が起きてしまう副作用があったのです。なので今は当時と同じ10歳です」
「なるほど」
僕は少しずつ理解をしようとした。
「私はゴフェルおじいさまに時が来るまでアデス様を守ってくれと言われ、マジックアイテムを持って魔人領を出ました。それから数年、アデス様が目覚めないまま人間の国などで冒険者などをして生活をしていました。そしてある日、私の力不足のせいで奴隷商に掴まってしまいました」
ザンは悔しそうに話した。
「荷物を奪われ、船に乗せられ、途方に暮れていました。ですが船の中でアデス様が目覚めたのです。奴隷商に見つかり、私と同じように奴隷にされてしまいました。それからは出会った頃にクリフがお話しした内容です。アデス様は私が守っていたことも、魔人領のことも何も覚えていません」
「大変だったんだな」
僕はザンの肩を叩いた。
「それでザンはどうしたいの?」
「私は今まで通りでいたいと思っています」
「ん?じゃあなんで僕達に話したの?」
「それは……」
ザンは気まずそうにした。
「テツジ様に秘密にしているのがつらくなってしまったのと、何かが起きた時に助けていただきたかったんです。私はこの島ならアデス様を安全に守れると思っています。ですが私やアデス様がこの島に居るせいで、みんなに何かあってしまったら……」
「なるほどね。わかったよ。何かあったら協力する」
「本当ですか?」
「ああ。ね?」
僕は小町とシゲ爺を見た。
「そうだね。ザンはもう家族みたいなものだし、アデスは娘だしね」
「ゴフェルさんの玄孫を無下には扱えんよ」
「小町様、シゲ爺様」
ザンの目はうるんでいた。
僕達はこれからについて話した。
「この話はみんなに伝えないでいいと思う。何かあってからでも遅くはないし、何もないのに変に気を張らせる必要時はないと思う」
「そうだね。アデスにも伝えないでいいと思うよ。いきなり魔人領の幹部だったって言っても混乱しちゃうから」
「わかりました」
ザンは頷いた。
「ザンもいままで通りでいていいと思うよ。いいお兄さんみたいな立ち位置だし」
「そうですか?」
「うん。ドグドもアデスも懐いてるし」
僕がそういうとザンは少し嬉しそうにした。
アデスの記憶障害も一時的なものみたいだから、思い出したときにすべてを伝えるということになった。
すべてを話して肩の荷が下りたのか、ザンの表情はすこし軽くなったように思えた。