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55.しげ爺の秘密

僕と小町はシゲ爺の家に来た。


「身体は大丈夫ですか?」

「おお。ぴんぴんしとるよ」

シゲ爺は腕を回した。


「それでいろいろ聞きたいことが……」

「構わんよ。何から話そうかの」

シゲ爺は少し悩んで口を開いた。


「まずわしは若い頃、この世界に来たことがある」

「「えー!」」

僕と小町は驚いた。


「米農家を継ぐ前はだいぶやんちゃしていたんじゃ。わしは友人ととある神社で天狗族という種族に出会った」

「天狗というと、あの天狗ですか?」

「ああ。顔が真っ赤で鼻が長い天狗じゃ。その他にも烏天狗もいた」

「それで?」

「その2人は異世界から来たと言っていて、元の世界への帰り方がわからないと言い出した。わしと友人は2人が帰れる術を一緒に探してあげることにしたんじゃ」

信じられないような話だったが、なぜかシゲ爺の話に引き込まれた。


「天狗も烏天狗も『変化』というスキルを持っていたので人間に変化してもらい、わしらが当時使ってた溜まり場で暮らしてもらうことにした」

「溜まり場?」

「ああ。友人の家が地主でな、街から少し離れた一軒家を自由に使っていたんじゃよ」

「なるほど」

「わしと友人は2人にこの世界を楽しんでもらいながら、帰る方法を探した。するとある日、2人と出会った神社の鳥居が異世界に通じたんじゃ。わしと友人は遊び半分で2人と共に鳥居をくぐったんじゃ」

「それで異世界に?」

「ああ。転移をすると鳥居は力をなくし、元の世界に戻れなくなった。そこから数か月ほど妖人族達と過ごしたんじゃ」

「妖人族?」

「ああ。天狗族やその他の種族をまとめて妖人族というらしい」


静かに話を聞いてた小町が口を開いた。

「数か月も居なくなってて、大丈夫だったの?」

「ああ。不思議なことに何も問題がなかった。わしらがいなかったことも戻ってきたことも、すべてが自然なことのようになっていた」

「え!?」

「わしもなぜそのようなことが起きているのかはわからんが、辻褄が合ったように元の生活に戻ることができた」

異世界転移は不思議な現象によって、成立させられてるのかもしれない。


「シゲ爺のあの姿は若い頃の?」

「当時の姿じゃ。スキルは元の世界に戻ったときに使えなくなってたんじゃが、この島に戻ってまた昔のスキルと似たようなものを取得した」

初めてスキルを確認したときのことを思い出したら、いろいろ繋がった。


「当時はモンスターと戦ったりしてたんですか?」

「ああ。妖人族が住んでいる島の近くにモンスターが大量発生していて、妖人族や龍人族や他の転移者と共に戦って殲滅していったんじゃ」

「他の転移者!?」

「妖人族の住んでる島には、鳥居のようなこの世界と時々繋がる場所がいくつもあったんじゃ」

「なるほど」

想像を遥かに超える話だった。


「ちなみに友人の方は?」

「友人は親が亡くなったタイミングで土地を全部売り払い、東京で一旗揚げると言って上京した。東京で興した事業が成功したと手紙で言っておった。毎年来ていた手紙も数年前から来なくなった。まあわしと同い年じゃ、亡くなっているかもしれんな」

シゲ爺は少し悲しそうに言った。


「結婚はしていなく養子で女の子を2人育てることにしたと言っておったから、今も幸せに暮らしててくれればいいんじゃがな」

「そうですね」

シゲ爺は笑顔を僕らに向けた。


「わしの話は以上じゃ」

「ありがとうございます」

僕は頭を下げた。


小町は不満そうな表情で口を開く。

「なんで黙ってたの?言ってくれればよかったのに!」


元々2人は仲が良かった。

教えてくれなかったことが不満だったようだ。


「それはな。2人に好きなように生活してほしかったんじゃ。それに危ない目に合わせたくなかった」

「え?」

「わしがこの世界に来たことがあると言えば、テツジくんは自分で舵を取らず、わしに任せようとするじゃろ」

「そうですね」


図星だった。

シゲ爺は僕の性格をよくわかっている。


「それと一番の問題はお前じゃ」

シゲ爺は小町を指差した。


「なんでよ!」

「お前は最初のころ、この島での生活を少しゲームのような感覚になっていなかったか?」

「……」

小町は黙った。


「初めてわしがこの島に来た時にすべてを話していたら、お前は冒険に行こう!モンスターを倒そう!と言い始めたんじゃないか?」

これも図星だろう。

小町はぐうの音も出なかった。


「クリフ達がこの島に来て、ドグドくんとアデスちゃんが子供になり、少しずつ現実だと実感してきたじゃろ?」

「……そうです」

「ここは異世界じゃが、現実なんじゃ。1度ミスをすれば自分や大切な人が死んでしまう」

「……はい」

「そういう意識がお前にしっかりつくまで、この話はするつもりではなかった。今回も見守るつもりじゃったが、サハギンキングという強力な敵が現れたからしょうがなくスキルを使ったんじゃ」

小町は黙り込んでしまった。


「シゲ爺。そこらへんにしてもらってもいいですか?小町もわかっているので。それにそこまで小町も軽くは思っていないですよ」

シゲ爺は小町に少し言いすぎるところがあった。


「すまない。言い過ぎたかもしれないの。じゃがこの世界も元の世界も現実だということを伝えたかったのじゃ」

「……わかってるよ。おじいちゃんの言う通り、少しゲーム感覚だった時期もあった。でも今は違うもん」


シゲ爺の言い方に少し拗ねているが、小町にも思い当たる節があったみたいだ。

この状態になれば、自然に仲直りしてくれるはずだ。


「話は変わるが哲治くん」

「はい。なんですか?」

「哲治くんは人を殺せるか?」

「え!?どういうことですか?」

僕は動揺した。


「海賊がいたんじゃろ?その海賊がこの島に来たらどうするんじゃ?」

「あっ」

僕は考えていなかった。


「海賊は極悪非道なやつかもしれん、この島を占拠してくる可能性もある。だが人間じゃ」

「僕は……殺せないと思います」

「そうか。そうじゃな」

シゲ爺は頷いた。


「じゃが、戦わないと守れないぞ?」

「はい。なので拘束できるような戦い方をします」

「できるのか?」

「……」

僕は黙ってしまった。


そんな様子を見たシゲ爺が口を開いた。

「わしが哲治くんに刀を教えよう」

「え?」

「相手を拘束するにも技術は必要じゃ。殺せる者だけが殺さない戦いができる」

「わかりました。お願いします」

僕は頭を下げた。


「ザンとドルンに刀を教えているのはわしじゃし、3人まとめて教えてやる」

「え!?そうなんですか?」

「ああ。実はザンには一度スキルを使うところを見られて、口止めしてたんじゃ」

最近のザンの歯切れの悪さの理由が分かった。


「ザンを責めないでやってくれ」

「大丈夫です。なんとなく変だなとは思ってましたが、信頼はしてるので」


ザンにはあとで少し意地悪をしてやろう。


僕達は話を終え、みんなの元へ向かった。

シゲ爺の話をみんなに共有するために。


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