45.潜水クリーム
カーレが島に来てから1週間経った。
サハギンは毎日のように現れた。
さすがに対策をしなくてはということになった。
カーレの粘液を使ってサハギンの棲み処を探してみたが、粘液の効果は15分ほどしか持たなくて調査が進まなかった。
今はプロールに粘液を使って、長時間潜れる薬を作れるか試してもらっている。
▽ ▽ ▽
「今日も田んぼを手伝うかー」
ここ数日は田んぼを手伝っている。
買い手が見つかったからか、小町としげ爺がやる気を出していた。
「なんか他のお米とかも作りたいですね。もち米とか」
僕がそういうとしげ爺は口を開いた。
「うーん。難しいじゃろうな」
「そうなんですか?」
「ああ。もち米はうるち米の花粉で品質が下がっちゃうんじゃよ。だから離れた場所に作らないとダメなんじゃ」
「そうなんですね」
「まあ。異世界だから、試してみてもいいかもしれんがな」
「そうですね。他にやれることがなくなったらやってみましょう」
僕としげ爺は話しながら作業を進めた。
▽ ▽ ▽
夕飯はいつものようにみんなで食べている。
しげ爺と小町が作った和風の魚料理は白米がどんどん進む。
「プロール。カーレの粘液はどう?」
「はい。そろそろ完成すると思います。先日コマチ様に買っていただいた化粧品と組み合わせて、一番効果が出るものを探っている段階です」
「それはよかった!引き続きお願いね」
「はい」
これでサハギンの棲み処探しができそうだ。
ダルンが口を開いた。
「テツジ様。船着き場もあと5日ほどで完成します」
「本当に?」
最近はドグドとアデスとザンが船着き場造りを手伝っていたからペースが早まったのだろう。
「メタルフィッシュのおかげで木材の耐久力があがり、海水にも強くなりました」
「いいね。船着き場が造り終わったらどうする?」
「集落をもう少し快適に改善していこうと思います」
「うん!よろしく」
「はい!」
ダルンは笑顔で頷いた。
▽ ▽ ▽
2日後、プロールが完成させた。
「テツジ様。こちらがカーレの粘液と葉を乳液と調合したものになります」
「効果は?」
「1時間です。クリフで数回試したので確実です」
クリフがここ最近疲れていたのは、この薬の効果を試していたからか。
「これを顔に塗れば、呼吸ができて目を開けても痛みがありません」
「うん。いいね」
「それに全身に塗れば、水の抵抗も少なくなります」
「え?ほんとに?」
「はい。ですが会話は触れ合っていないとできません」
たぶん振動がどうのこうのなのだろう。
「あとで試してみるよ」
「はい。水中では塗るのは難しいので、効果が残っている間に陸に戻ってきてください」
「うん。そういえば名前は考えた?」
「いえ。テツジ様にお願いしてもよろしいですか?」
「うーん」
悩んだ。
「潜水クリームでいいかな?」
僕は自分のセンスのなさを悔やんだ。
「わかりました。潜水クリームですね。引き続き、量産と改良を進めます」
「よろしく!」
プロールはそういい去っていった。
▽ ▽ ▽
僕は小町とオクトンを連れて、海に来ていた。
しっかり水着を着用している。
「これを塗るの?」
「うん。そうすれば海の中でも呼吸できるらしい」
「プロールに日焼け止めの効果もつけてもらえるか聞いてみよー」
そういいながら小町は潜水クリームを身体に塗り始めた。
塗ってあげるとはさすがに言い出せなかった。
この思考は魅了の黒ビキニの効果のせいだ。
「よし。入ろう」
潜水クリームを身体に塗った俺達は海に飛び込んだ。
「お!ちゃんと使える!」
プロールは素晴らしい仕事をしてくれた。
小町を見てみると、口をパクパクさせている。
たぶん喋っているのだろう。
僕も試しに喋ってみた。
「小町―!今日も可愛いぞ!」
小町は俺を見ながら首を傾げていた。
やはり聞こえてないみたいだ。
「オクトーン!いつもありがとう!」
するとオクトンが近づいてきた。
「え?聞こえてる」
キューキュー
オクトンは頷いた。
「オクトンの声も聞こえるぞ」
僕はカーレと出会った時のことを思い出した。
オクトンは俺の声にちゃんと反応していた。
もしかすると水の中で生活できるモンスターの耳や口は特別な造りになっているのかもしれない。
「オクトン。小町の所に行くよ」
キューキュー
俺はオクトンに掴まり、小町の元へ行った。
小町の手を握った。
「聞こえる?」
「うん。さっきなんて言ってたの?」
「あ、いや。今年の抱負を叫んでた」
「え?そろそろ8月になるのに」
「う、うん」
僕の意気地のないところが出てしまった。
「とりあえず島の周辺泳ごうか」
「うん!」
僕と小町は海中デートを楽しむことにした。
▽ ▽ ▽
泳いでいると、地面に大きなカニのモンスターがいた。
よく見てみると背中に大量の普通サイズのカニのモンスターが張り付いていた。
「集合体恐怖症の人にはきつそうなモンスターだね」
「そうだね。私もちょっとダメかも」
小町は目をそらした。
「オクトン。あのモンスターは倒した方がいい?」
キュ!
オクトンは頷いた。
「じゃあ倒すか。小町は離れてて、エアガンはさすがに海の中じゃ使えないと思うから」
「わかった」
小町は僕達から少し離れた。
「金鍔!」
召喚した金鍔を握り、振ってみた。
やはり海の中、水の抵抗で少し振りにくいがたぶんいける。
「オクトン、うじゃうじゃ背中についてるやつを頼む。僕はデカい奴をやる」
キュー!
オクトンはカニのモンスターに向かって行った。
8本の脚を使い、背中についてるカニのモンスター達を引き剝がしていく。
僕は地面に足を付け、カニのモンスターの前に立ちふさがった。
カニのモンスターはブクブクと泡を吹きだして、こっちを見ている。
背中のカニが引き剥がされたのに微動だにしない。
僕は金鍔をカニのモンスターに振り降ろした。
ガキン!
攻撃は甲羅に弾かれた。
「あーさすがにダメか」
金鍔の斬れ味や技量不足もあり、何度攻撃しても刃が通らなかった。
オクトンを見ると、すでに引き剥がしたカニのモンスターを制圧していた。
「オクトン、ごめん。こいつを陸にあげてくれないか」
キュー!
オクトンは脚を使って持ち上げ、口から勢いよく水を吹き出してカニのモンスターを陸に吹き飛ばした。
「ありがとう」
キュー!
僕はオクトンの脚を掴み、陸へと向かった。
▽ ▽ ▽
「あれ?これってさっきのカニ?」
僕の目の前にいるのは、陸を動き回るカニのモンスターだった。
「なんで海の中より陸の方が活発に動いてんだよ」
僕は金鍔を構えた。
カニのモンスターは僕を見つけると勢いよく向かってきた。
鋏での攻撃を金鍔で弾く。
「なんで活発なんだよ!」
金鍔を振り降ろして、カニの甲羅を攻撃する。
少し傷をつけるが、ダメージと言えるものではなかった。
「練習しないと使い物にならないな」
僕は金鍔をしまった。
「クッキー&クリーム!」
クッキーとクリームを構えて、カニの両眼に狙いを定める。
パシュ!パシュ!パシュ!
パシュ!パシュ!パシュ!
両眼を執拗に撃ち続けた。
パシュ!パシュ!パシュ!
パシュ!パシュ!パシュ!
目と思われる部分を完全に破壊した。
「キャラメル!」
キャラメルを召喚し、顔と思われる箇所を撃ち続けた。
バシュシュシュシュシュシュシュシュ!
カニのモンスターは動かなくなった。