44.バブルトレント
翌日、僕たちはノヴァさんの見送るためにビーチに集まった。
「いろいろもてなしてもらったお礼!」
ノヴァさんは腰にさげているバッグから大量の海藻を出した。
「これは?」
「バブルトレントの葉。これで口と鼻を覆えば水中でも少しの間呼吸ができるよ」
「そんなすごいものもらっていいんですか?」
「いいよ!お礼だし。てか、この島の周りにもバブルトレントがいるはずだから簡単に手に入るよ」
「そうなんですね」
「バブルトレントは比較的優しいモンスターで、魚とかを数匹あげると葉を数枚くれるよ。ただしバブルトレントと見た目がそっくりなシートレントは、近づくだけで攻撃してくるから気を付けてね」
「わかりました」
ノヴァさんはタックの甲羅の上に飛び乗った。
「じゃあまた来るから!白米の確保、お願いね!」
「わかりました!お待ちしてます!」
ノヴァさんは甲羅に触れると姿が消えた。
タックはゆっくりと海の中に入っていった。
▽ ▽ ▽
「やっと白米が見つかったー!みんな喜ぶぞー」
ノヴァは数年間、探し続けていた念願の白米が見つかって喜んでいた。
「タック!目指すはマヌセラ!」
ギャウギャーウ
「あっ!近くの海で海賊らしき船を何隻か見たのを伝えるの忘れてた。まああの海域を超えられる船はいないだろうから大丈夫でしょ」
タックは海底をどんどん進んでいく。
「白米を見つけた報告をしたいなー。ライル達、早く目覚めてくれないかなー」
▽ ▽ ▽
ノヴァが帰っていった。
僕はもらったバブルトレントの葉を試してみることにした。
別荘で海水パンツに着替えてビーチに行った。
「え?なんでみんな準備万端なの?」
ビーチには水着に着替えたみんなが居た。
「哲ちゃんの考えてることなんかお見通しだよ!」
小町がどや顔で言った。
「いつの間にみんなの水着を買ったの?」
「女性陣はこの前の逆異世界観光の時、男性陣は大体のサイズで適当に買ったよ。ザン用に加工はちょっと大変だったけど、ほかの服で慣れてたから何とか出来たよ」
小町のこういう気遣いは本当に素晴らしい。
そして可愛い。
そして魅了の黒ビキニは本当に似合っている。
「じゃあみんなで試そうか」
「うん!」
僕はバブルトレントの葉をみんなに配った。
バブルトレントの葉で鼻と口を覆って海に潜った。
「うぉ!うぇんうぇんうういうあい!」
海の中でも呼吸することができた。
このまま海中散歩をしようと目を開けてみた。
「うぃあ!うぃあああ!」
海水が目に染みて痛みが走った。
「ぷは!駄目だ!痛すぎて海の中で開けられない」
「ははは!哲ちゃん!当たり前のこと言わないでよ」
小町は癒しのウォーターマットに乗りながら、僕の様子を見て笑っていた。
「海中で呼吸できたから、魚のように泳げるんじゃないかって思って」
「まあわかるけどー。海水なんだから無理だよ」
「ゴーグル買おう」
「そうだね」
みんなの様子を見てみると、男性陣は全員涙目になっていた。
僕だけじゃなくて安心した。
「哲ちゃん。オクトンといっしょにビーチにいるの何?」
「え?」
ビーチを見てみるとオクトンの足元に海藻のようなもの動いていた。
「え?もしかして。ちょっと行ってくる」
「うん」
僕は泳いでオクトンの元へ向かった。
オクトンの足元にある海藻はウニョウニョとうごめいていた。
「オクトン。これは?もしかしてバブルトレント?」
キュー!キュキュ!
オクトンは否定しているようなリアクションをした。
「え?違うの?うーん。なんだろ?」
オクトンは否定してるが、うごめいている海藻にはさっきまで使っていた葉がたくさんついている。
僕がオクトンの意思を汲み取ろうとしていると、うごめいていた海藻が起き上がった。
「うわ!」
いきなりのことで僕は驚いた。
起き上がった海藻を見てみると茎がすごい長いわかめのようだ。
海藻は葉を僕の顔に近づけてきた。
「え?え?」
ぐちょ
海藻は僕の顔に粘り気のある液体を塗りたくった。
「うわー。なにこれ」
僕が戸惑っていると、オクトンが僕を持ち上げた。
「オクトン!どうしたの?何?」
オクトンは僕を無視し、そのまま海へ投げ飛ばした。
ジャボーン!
僕は海の中でてんぱってもがいていた。
「なになに!どういうこと?オクトーン!って、え?」
呼吸ができている。
それに声も出せてる。
僕は恐る恐る目を開けた。
「おー!」
海の中の様子が鮮明に見えた。
それにさっきのように目が痛くない。
あの海藻の粘液の効果なのだろうか?
キュー!
僕が海の中を堪能していると、オクトンと海藻がやってきた。
「すごいねオクトン!これを伝えたかったんだね」
キュー!
海中で動く海藻は想像よりも長かった。
これは海藻というより蛇。いや蛇よりも長い。
「やっぱりこの子がバブルトレントなんだろうな」
僕はオクトンとバブルトレントと海中散歩を堪能した。
▽ ▽ ▽
ビーチに戻ると、みんなが食事をしていた。
「みんな休憩?」
「哲ちゃんが全然帰ってこないから、食事始めちゃったよ」
小町は飽きれたように言った。
「そんなに潜ってた?」
「うん。全然上がってこないから最初は心配してたけど、オクトンがいるから大丈夫だねって」
「いや最後まで心配してよ」
小町と話していると、シゲ爺がやってきた。
「哲治くん。いっぱい作っておいたから、早く食べてしまいなさい」
「あ!ありがとうございます」
僕はみんなの元に行き、食事を始めた。
「テツジ様。それであの海藻がバブルトレントなんですか?」
クリフが問いかけた。
「たぶんね。粘液を顔に塗って海に入ったら、呼吸もできたし喋れたし目も開けられた」
「「「「「「おー」」」」」」
「ご飯食べたら、みんなもバブルトレントにお願いして塗ってもらいな」
「「「「「はーい」」」」」」
僕たちは午後の体力のために食事を進めた。
▽ ▽ ▽
午後もバブルトレントのおかげでみんなで海を堪能できた。
「よーし。そろそろ暗くなるし別荘に戻るよ」
「「「「「はーい」」」」」
別荘に向かってる間にピュアスライム達が身体を綺麗にしてくれた。
「ありがとみんな」
ぽにょぽにょ!
みんなもしっかり綺麗にしてもらっていた。
「あれ?」
オクトンがバブルトレントを持って、池へ向かっていた。
「オクトン。そのバブルトレントはどうするの?」
キューキュー!
たぶん池で一緒に暮らすって言っているのだろう。
「そうなるとバブルトレントには名前をつけないとな」
キューキュー
「うーん。カーレとかはどう?」
オクトンの腕の中でバブルトレントが激しく動き出した。
たぶん気に入ってくれたのだろう。
島にまた新しい仲間が増えた。




