39.逆異世界観光①
「よーし!出発!」
小町の掛け声に合わせて車を出発させた。
後部座席にはダルンとドルンが乗っている。
2人は長い耳を隠すようにニット帽をかぶせている。
身長などはどうしようもないのであきらめた。
島で軽トラに乗ったことがあるから車には驚いていなかったが、移り変わる景色に目が輝いていた。
「まずは参考になるかわかんないけど、海に行こうと思う」
「海ということは、港ですか?」
「うーん。港なのかな?一応船は泊まるみたいだから船着き場の参考になるかなーと思って」
「「ありがとうございます!」」
わかりやすくはしゃいでいる2人をミラーで確認しながら、僕は運転を続けた。
▽ ▽ ▽
海に到着した。
ここは遊覧船に乗って観光ができる場所みたいだ。
僕も小町も初めて来た。
「あの船、ものすごく派手ですね」
ダルンが船を指差して言った。
「観光客が乗る用だからね」
「そうなんですね。ちょっと近くで見てもいいですか?」
「いいよ」
ダルンとドルンは船着き場へ向かっていった。
「ここに来るのは初めてだね」
小町がやってきた。
「そうだね。引っ越してから近所はいろいろ行ったけど、あんまり遠出することはなかったもんね」
「いろんなところ行きたいね。子供もできたし、家族もいっぱい増えたし」
僕達は船着き場を熱心に見るダルンとドルンを見ながら話した。
▽ ▽ ▽
次に案内する場所は神社だ。
日本の建物感を感じるにはもってこいの場所だ。
「「おー凄い!」」
ダルンとドルンは目を輝かせていた。
「ここはこっちの世界の神様が祀られている場所だよ」
「そんな神聖な場所なんですね」
「なんか緊張してきた」
ドルンはおどおどし始めた。
「大丈夫!失礼のないようにすれば問題ないから」
「わかりました」
僕と小町は2人に参拝方法を教えた。
「じゃあ2人共、僕達の真似をすればいいから」
僕は賽銭箱にお金を入れ、頭を2回下げて2回手を叩いて目を閉じた。
「私の後輩達がすまない。立場上あまり手助けはできないが、これを授けるよ」
「「え?」」
頭の中で誰かの声がした。
目を開けて、僕と同じように声を出した小町を見た。
小町も何が起きてるかわかっていないようだ。
「聞こえた?」
「うん」
「誰?」
「わかんない」
ダルンとドルンを驚いている僕達を見て困惑している。
「ごめんごめん。ダルンとドルンも参拝しちゃいな」
「「はい」」
ダルンとドルンは賽銭箱の前に向かった。
僕と小町は状況を確認した。
「なんて言ってた?」
「後輩がどうとか、これを授けるとか」
「一緒だ。なんか授かられた?」
「いや、何にも感じないけど」
僕は自身の身体をまさぐった。
するとポケットの中に何かが入っていることに気づいた。
取り出すと、きれいな石が入っていた。
「これが入ってた」
「私も!!」
小町のポケットにも同じ石が入っていた。
「これは島に戻ったら確認しよう」
「うん。そうだね」
喋っているとダルンとドルンが帰ってきた。
「参拝できた?」
「「はい!たぶんできたと思います」」
「よかったよかった!じゃあ次に行こうか」
「「はい!」」
僕達は神社を後にした。
▽ ▽ ▽
島に戻ってきた。
ホームセンターではダルン達が欲しいものを大量に買った。
欲しいものといっても、島の建築で使えそうな消耗品だ。
僕と小町はサングラスを使って、神社で手に入れた石を確認した。
○身代わりの石
持ち主の致命傷を代わりに1度だけ受けてくれる。
「身代わりの石か…」
「すごいもの授けられちゃったね」
「そうだね。元の世界にもこんなすごいものがあるなんて」
やはり神社で話しかけてきたのは神様なのかもしれない。
「これどうしようか?」
「哲ちゃんが持っててよ」
「え?なんでよ」
「だって私には『過保護な防壁』があるんだよ?逆に哲ちゃんは攻撃のスキルも防御のスキルもないから、絶対に持ってた方がいい」
真面目な顔をした小町に身代わりの石を渡された。
「わかったよ」
僕は身代わりの石を2つしまった。
小町は真面目な表情から、いつものゆるゆるな表情に戻った。
「明日はクリフ夫妻だよ!」
「じゃあ、ショッピングモールに行くか」
「うん!あの2人なら、どんな服でも似合いそうだなー」
小町は2人を着せ替え人形にする気満々だった。
▽ ▽ ▽
「お疲れ様」
僕は疲れ切っているクリフと共にモールのフードコートで休んでいた。
「まさか服屋がこんなに疲れるところだとは知りませんでした」
今日は予定通り、クリフとプロールを連れてショッピングモールに来ていた。
そして予想通り、2人は小町の着せ替え人形にさせられた。
2人共、ハリウッドスターのような容姿をしているため、店員さんもテンションが上がってしまい、数時間着替えを繰り返していた。
着替えている間は帽子を外しているので、店員さんには海外で付け耳が流行っていると嘘をついた。
プロールは着替えるたびにどんどんテンションが上がっていったが、クリフはどんどん衰弱していった。
そして現在に至る。
女性陣はコスメや下着類を買いに行き、僕はクリフが回復したら本屋に向かう予定だ。
「すみません、テツジ様」
ボロボロのクリフは頭を下げた。
「気にしなくていいよ。女性の買い物に付き合うのって慣れないと大変だから」
僕も昔は小町に連れまわされてボロボロになっていた。
「そういうものなんですね。私達の世界にはこんな大きなお店はなかったですので、一緒に買い物をするというのが初めてかもしれません」
「またこっちに来るだろうし、プロールが好きなものとか知っておけば贈り物とかに悩まなくなるかもよ」
「贈り物ですか?」
「うん」
「最後に贈り物をしたのはだいぶ前ですね…」
「そうなの?」
僕はクリフ夫妻の仲睦まじい様子を島でよく見ていたので意外だった。
「奴隷になる前も隠れて暮らしていたので、最後に贈り物をしたのはエルフの国があった時代ですかね」
「数十年も前?」
「はい」
僕はいつもサポートをしてくれているクリフの背中を押してやることにした。
「クリフ!贈り物買いに行くよ」
「え?」
クリフは驚いていた。
「お金は気にしないで!僕が出しちゃうとダメだから貸すよ。その代わり今まで以上に島で働いてくれる?」
「いいんですか?」
「うん!」
「ありがとうございます!」
クリフのとても良い笑顔だった。
「最後の贈り物は何だったの?」
「エルフの伝統的な指輪です」
僕はプロールの姿を思い出したが、指輪をしていた記憶がなかった。
「あれ?指輪なんてしてたっけ?」
「奴隷になるときに奪われてしまいました」
「あっ!ごめん」
「いいんです。私の力不足でしたので」
クリフの表情は暗くなった。
「じゃあ、指輪を買おうよ」
「え?」
「島で再出発したんだから!ここからまたよろしくねっていう意味で」
「いいんですか?」
「いいよ。そうとなったら、お店に行くよ!」
僕はクリフを連れてジュエリーショップへ向かった。
▽ ▽ ▽
「ふー!楽しかったねプロール」
「はい!いろいろ買っていただき、ありがとうございます!」
「いいの!女の子は可愛くなりたいものなんだから!まあプロールはそのままでもだいぶ綺麗だけどね」
女性陣は大量の買い物袋に囲まれながら、後部座席でキャピキャピしていた。
クリフはなぜか緊張していた。
まあ当然だろう。
今晩、島でプロールに指輪を渡すつもりなんだから。
そんな気も知らずに女性陣を乗せ、家へ向かって車を走らせた。




