36.サハギンとポーション
2週間ほど経った。
ここ1週間は急な仕事に追われて、島には食事の時しか行ってなかった。
お金は変換機のおかげで不自由はしていないが、急に島に行けなくなってしまうことがあるかもしれないから、仕事は適度にやるようにすると小町と決めていた。
島は2週間でだいぶ進展した。
ダルン達のおかげで、メタルフィッシュを使った家の強化や田んぼ周りの建物も出来上がっていた。
広場には注文していた床のタイルや街灯風ライトやBBQコンロも設置をしてもらった。
そのおかげで、どこぞのリゾート地のような見た目になっていた。
すべての建物や街灯に電気を通すために、ザンがスキルを使って土の中に潜ってマジックアイテム化した延長コードを這わせていた。
プロールに頼まれていた、エナジードリンクも大量に準備をした。
調合に使えると思って市販薬も適当に買って渡しておいた。
残念ながら市販薬はマジックアイテム化することはなかった。
大量の液体用容器と僕のサングラスも渡しておいた。
ドグドとアデスはザンの元で毎日のように稽古をつけてもらっていた。
向上心が高いのはいいけど、DVDを見たがるのはやめてほしかった。
さすがアフレコするのはしんどかったので、2人の好きな作品が載っている子供用雑誌などを買って、文字の勉強をするように促した。
田んぼはシゲ爺が言うには、魔力が少し減ってしまったみたいだ。
だけど食べた魚の骨を撒いたことで、その問題もすぐに解決した。
育苗が終わり次第、田植えを始めるそうだ。
▽ ▽ ▽
僕は送信をクリックし、メールを送った。
「よーし。納品完了!今日はゆっくり島で過ごすかー」
小町は朝から島に行っているので、僕は1人で島へ向かった。
広場に行くと、魚のような人のようなものの死体が積まれていた。
「え?なにこれ?魚人?」
僕が問いかけるとクリフが答えた。
「サハギンの死体です」
「サハギン?」
「海に生息するモンスターです。魚の頭に人の身体で武器や魔法を使うモンスターです」
「そうなんだ。漁をしたときに倒したの?」
「いえ、ビーチに現れたのをザンとドグドくんとアデスちゃんが倒しました」
「え!島に来たの?」
「はい」
今まで森の中や洞窟の中ではモンスターが現れたことがあったが、まさか海からモンスターが上陸してくるとは思わなかった。
「今後もモンスターが上陸してくる可能性はあるの?」
「ないとは言えませんね。海に住むモンスターでもサハギンのように地上で活動できるモンスターもいますので」
「オクトンも地上で活動してるもんね」
「はい。ですがサハギンレベルのモンスターでしたら、我々で対処できますので」
「そう?」
クリフはそう言うが、僕はすごく心配だった。
「一応、何か対策はしたいんだけど…」
「わかりました。ダルン達と相談してみます」
「ごめん、おねがいね」
「はい!」
クリフはそういうと、ダルン達のもとに向かった。
「なんか僕にできることないかな?」
僕はやれることを探したが、すぐには思いつかなかった。
▽ ▽ ▽
広場でオクトンとくつろいでいると、プロールがやってきた。
「テツジ様。ポーションができたのですが、これを見ていただけますか?」
そういいながら作ったと思われるポーション数個とサングラスを渡してきた。
○ホワイトポーション
体力回復(高)・治癒(高)
○ブラックポーション
体力上昇(高)・体力回復(高)・疲労回復(高)・スタミナ回復(高)
※効果持続6時間
○真実のポーション
飲むと1時間の間、嘘をつけなくなる。
「うわ!これって」
「能力が凄すぎますよね。私も今までこんなすごいものを作ったことがなくて」
「これは凄すぎる。このポーションは緊急時以外使用禁止で」
「わかりました」
ホワイトポーションはまだいいが、ブラックポーションという名前はちょっと社会の嫌な部分を凝縮した感じがした。
それに真実のポーションって自白剤じゃん。
これは完全に封印だ。
「今後は能力を落としたポーションを作れるようにしていこうと思います」
「そうだね。なんか普通の素材とかを混ぜればうまくいくかもね」
「はい。ちょっといろいろやってみます」
プロールはそういうと自分の家に戻っていった。
▽ ▽ ▽
ザン達の様子を見に行こうとビーチに向かっていると、ビーチの方から戦闘音が聞こえてきた。
「え?」
僕とオクトンはすぐに向かった。
ビーチに到着すると、ザンとドグドとアデス、それにパンダのマオがサハギンと戦っていた。
サハギンの数は10体ほどで、水の球や水の矢を飛ばしてきていた。
4人はその攻撃を弾いて、サハギンに向かっていった。
「大丈夫?」
僕が問いかけるとザンが答えた。
「問題ありません。サハギンとサハギンメイジが上陸しただけなので」
ザンは何も起きてないかのように答えた。
その言葉通り、4人はサハギンの群れを一瞬で壊滅させた。
「大丈夫だった?」
「はい!問題ありません。今回は魔法に特化した上位種がいましたが、これくらいの相手なら余裕です」
「そうなんだ…」
ドグドとアデスも物足りなさを感じているような雰囲気だった。
「でも前まで海からモンスターが上陸なんてしなかったのに」
「もしかしたら、近くにサハギンの巣があるのかもしれませんね」
「え?」
「サハギンはゴブリンのように繁殖能力が高いので、ありえない話ではないです。それに…」
「それに?」
「この島は魔力が豊富ですし、食材もたくさんあります。それを嗅ぎつけて集まってきたのかもしれません」
「なるほど。なんか対策をしないとだめだよね?」
「うーん。サハギン程度なら我々だけで問題ありませんが、最上位種などがもし現れたりしたらちょっと大変かもしれません」
ザンが大変というのだから相当なものなのだろう。
これはすぐにでも対策を考えないといけないかもしれない。