32.漁業に挑戦
本日は初の漁業に挑戦だ。
漁業と言っても、漁船を使って釣りをするだけだが。
メンバーはクリフ・プン・ザン・ドグド・アデス・オクトンだ。
「テツジ様、楽しみですね」
「漁なんてしたことないからワクワクします」
キュー!キュー!
クリフとプンとオクトンは漁をするのが楽しみだったみたいだ。
2人とは違い、ザンとドグドとアデスは少し緊張しているようだ。
「3人共、大丈夫か?」
「はい。3人で昨日のうちに様々な対策を考えましたので」
「対策?」
「船がモンスターに襲われた場合、穴が開いた場合、空を飛んだ場合などさまざまな状況に対応できます」
ザンは真面目なのだが、変な方向に真面目になってしまっていた。
そのせいでドグドとアデスは緊張しているのではなく、頭がパンパンになっているようだ。
「そういうなことが起きないのが一番なんだけどね。じゃあそろそろ出発しよう」
僕は海斬丸をマジックバッグから取り出し、乗り込んだ。
漁船モードの海斬丸に初めて乗り込んだが、なんかおもちゃみたいだった。
船の中央にはディスプレイがあるし、投網機と思われるものにもディスプレイが付いている。
「なんかハイテクだな。普通の漁船って絶対こんな感じじゃないだろ」
僕が船内を回っていると、操舵室からプンが呼びかけてきた。
「テツジ様。出港していいですか?」
「うん。お願い」
「はい。では出港します」
海斬丸は沖に向かって進んでいった。
▽ ▽ ▽
ザンの真面目さに感謝することになるとは思わなかった。
沖に出た瞬間、大きなウツボのようなモンスター3匹に囲まれた。
「ドグドくん、アデスちゃん。行きますよ」
「「はい!」」
3人はそれぞれウツボのモンスターに向かって飛んで行った。
アデスはウツボのモンスターに一気に近づいた。
「くらえー!」
クロデコステッキを構えると、ステッキから半透明の黒い刃が出てきて鎌のようになった。
アデスがクロデコステッキを振るとウツボのモンスターの首が刎ね飛び、胴体が水面にたたきつけられた。
「マジ、あげぽよ!」
僕はアデスの言葉遣いの改善を心に決めた。
ドグドは身体のサイズを大きくした。
「えーっとこうかな?」
ブラックグローブがどんどん形を変え、先端に剣が付いたかのように尖った。
「えい!」
ドグドが拳を付きだすと、剣の部分が伸びてウツボのモンスターの首を貫通した。
「よし!できた」
僕は驚いた。
ドグドとアデスの戦闘力の高さを甘く見ていた。
うちの子供たち凄い。カメラ持ってくればよかった。
「まだザンの戦闘が終わってないんだった」
僕は我に返り、ザンの方を見てみると戦闘は既に終わっていた。
ザンの右手は大きくごつくなっていて、その手でウツボのモンスターの首根っこを掴んでいた。
「え?すごいな」
ザンはウツボのモンスターを掴みながら、船に近づいてきた。
「テツジ様。これどうしますか?食べられそうですよ?」
「ほんと?3匹とも船のマジックボックスに入れる?」
「1匹ですよ?」
「え?」
ザンはウツボのモンスターの首根っこを掴みながら空に飛んで行った。
するとドグドとアデスが戦っていたウツボと身体がつながっていた。
「3つ首だったんだ」
3つ首のウツボは姿が消えた。ザンがマジックバッグに入れたようだ。
3人が船に戻ってきた。
「お疲れ。3人共凄かったよ」
「ありがとうございます」
「パパ!すごかった?」
「頑張ったよー!」
3人は自身の戦闘に満足しているようだった。
僕はドグドとアデスの頭を撫でてあげた。
▽ ▽ ▽
ウツボのモンスターとの戦闘後も何度かモンスターに襲われた。
しかし何の問題はなかった。
3人の戦闘力が高すぎて、苦戦が一回もなかった。
「3人共、本当にすごいな」
「そう言っていただけるとうれしいです」
ザンはニヤニヤしていた。
やっと自分の得意分野で活躍できたのがうれしいのだろう。
ドグドとアデスはいつも以上に甘えてきた。
戦闘が終わるとすぐに僕の元に来て、手を繋いでくる。
かわいい子供達だ。
息子達を愛でているとプンが話しかけてきた。
「テツジ様。そろそろ良いかと」
「そう?じゃあ網を使いますか」
僕は投網機の元に行った。
ディスプレイをタップすると、[投網]と[回収]のボタンが出てきた。
「これディスプレイにする意味ある?」
[投網]をタップすると、画面が切り替わった。
画面には船の後ろを俯瞰で見たような画面になり、魚のマークが動いていた。
「魚群レーダーみたいなものかな?」
魚のマークに触れてみた。
ドシュッ!
投網機から網が飛び出した。
「こんな細かく飛ばすところを選べるのか、すごいな」
一応昨日の夜、網漁の動画を見て少しかじってみたがあんまり意味がなかったみたいだ。
「プン。僕が指示する方向に進んで」
「はい!」
僕は魚群レーダーを見ながら、プンに指示をした。
「右に大きく回って」
「わかりました!」
船はどんどん進んでいく。
魚群レーダーに映っている魚のマークを3つほど通過して停止した。
「これで回収を押せばいいのかな?」
[回収]をタップすると、ものすごい勢いで網が巻かれていった。
引かれる網の中はビチビチ魚が跳ねていた。
網が回収し終ると、さっきまで居たはずの魚が1匹も居なくなっていた。
「え?逃げられた?」
投網機のディスプレイをいじったり、網を見てみるがどこにもいなかった。
「テツジ様!大漁ですよ」
「え?」
クリフに呼ばれついて行くと、船の中央の生簀に魚が大量にいた。
「網からここに転送されるのか。ものすごい便利だな」
ザンが生簀の中身を見て口を開いた。
「中にいるのは全部ブラックサーモンですね」
「え?全然目当ての魚を捕まえられなかったな。もう一回やるか」
生簀近くのディスプレイをいじっているプンが口を開いた。
「いえ、大丈夫そうですよ?」
「え?」
プンがディスプレイをいじると、生簀が光って中の魚が変わっていた。
「ここに書いているのが正しいのであれば、8種類ほど捕まえれてますね」
プンの元に行き、ディスプレイを見てみた。
[ブラックサーモン65匹・ホワイトサーモン32匹・ソードフィッシュ21匹・アーマースナッパー58匹・メタルフィッシュ76匹・レッドメタルフィッシュ38匹・ブルーメタルフィッシュ40匹・ブラックメタルフィッシュ64匹]
と書いてあった。
魚の名前をタップすると生簀の中身が変わった。
「便利だなこれ」
「そうですね」
クリフもプンも感心していた。
メタルフィッシュをタップして生簀を覗くと、溶けたアルミで出来たような魚が大量に泳いでいた。
目も口も鱗もなく、つるつるのボディをしていた。
「なんか神秘的だな」
「私も初めて見ました」
「きれーい!」
「パパ、触っていい?」
ドグドはメタルフィッシュに興味津々のようだ。
「良いけど、どうやって捕まえようか」
「こちらを使ってください。操舵室にありました」
ザンはタモ網を渡してくれた。
僕はタモ網を使い、メタルフィッシュを1匹救い上げた。
ドグドはメタルフィッシュを掴んだ。
「え?冷たい!触ってみて!」
ドグドからメタルフィッシュを受け取った。
メタルフィッシュはひんやりとした感覚で、掴むと身体に指が入り込んでいくようだった。
「これすごい。この形を保っているのが信じられないくらいやわらかい」
この驚きを共有したくなり、みんなにも触ってもらった。
みんなが触っているとメタルフィッシュはどんどん硬くなっていった。
最終的には魚の形をした鉄の塊のようになった。
「なんか異世界慣れをしてつもりだったけど、今日は驚くことが多いな」
試しに硬くなったメタルフィッシュをサングラスを使ってみてみた。
○メタルフィッシュの死骸
メタルフィッシュが乾燥した姿。
熱を与えると液状になる。
食べることはできない。
「なんかレアメタルみたいなもんなのかな?だから高額になるのか?」
僕はいろいろ考えながら島に戻ることにした。




