ほんの少しの回転
バイク屋との電話で、軽く笑われた。
バイパスを降りた先でバイクのエンジンが停止
安全な場所にバイクを止めたとき「もうダメかもしれない」と思いながらも、行きつけ・・・・?
レッカー車で移動
数時間後に「エンジンがかかりました」と電話があるまで、はあ・・・? なぜとしか言えなかった。
なぜ、3000キロ前に交換したスパークプラグが緩んで抜け落ちるのか。それは疑問でしかなかった。
そう、数ヶ月前にスパークプラグを手で回して、1/8回転だけ増し締めしたあのときのことだ。それは確かに外れた。エンジンは止まり、僕はレッカーのお世話になった。
バイパスの降りた先だったから良かったものの、渋滞中のトンネルだったら目も当てられなかった。それは運が良かったとしか言えない状況だった。
あれで気づいた。締めなさすぎるのは、時に締めすぎよりも大きなダメージを呼ぶ。もしエンジンが振動で緩んでいたら、走行中に抜けてしまうかもしれない。バイクは思ったより繊細で、でも容赦なく過酷だ。
その後、駆動系のメンテをしてもらったにもかかわらず、数日でバイパスを走っているときに減速を感じた。50キロでフルスロットルにしてなんとか速度が回復したが、帰りは下り坂でようやく60キロ出せるくらい。平地では50キロしか出ず、さらに悪いことに上り坂では40キロが限界だった。その週はバイパスを走ることがほとんどできなかった。
自分でクラッチ交換も試したが、それは不安しか残らない作業だった。どれも、トルク管理ができない状態で生まれた問題だ。
しかし、学んだ。小さなナットやプラグ一つでも、トルク管理は命を守る。感覚で締めても、振動や熱膨張には勝てない。だから僕は、トルクレンチを手に入れ、長いプラグソケットを揃えるつもりだ。奥深くに眠るプラグに水平にアクセスし、規定の数字でそっと締める。それだけで、体感ではわからない安心感が手に入る。
そして、定期的に緩みをチェックする。数ヶ月に一度、数千キロごとに、体感ではわからない微妙な変化を確認する。バイクと向き合う時間。振動で緩むかもしれない、緩んではいけないナット。ほんの少しの回転で運命が変わることを、僕は忘れない。
バイクは教えてくれる。慎重に締めること、確認すること、それが安全の基本だと。
そして僕は、もう二度とレッカーの恥をかかないために、今日もトルクレンチを手に、慎重にナットを回すのだった。
あとがき
バイク整備は、命と深く関わる作業です。
しかし、それをすべて整備士に委ねても、必ずしも安心につながるわけではありません。整備士も人間であり、トルク管理がすべて正確とは限らないのです。もちろん、外れないことが最も大事ですが、それだけに固執すると、別のリスクや犠牲が生まれることもあります。
特にスクーターは振動が大きく、ナットやプラグが緩みやすい。整備士の作業も、最終的には自己責任になります。自分の命がそこに直結しているからです。
このあとがきを書いているのも、自分を守りたいからです。何から自分を守るのかと考えると、整備士を選び、任せることもすべて、起こりうることに対して自己責任だと気づきます。だから、誰かに文句を言われて傷つく必要も、実はないのかもしれません。
だからこそ、日本で「トルク」という概念が貴重に重視されるようになったのかもしれません。
トルク管理は、単なる数字の管理ではなく、整備士を守るための基本でもあるのです。
もちろん、JIS規格などである程度の基準が定められていることは否定できません。
しかし現場では、命と安全を守るために、確実な管理が必要です。
それは、安全安心のため多くの人が犠牲になった経験の上で、見つかってきた現実でもあるのかもしれません。




