癖と爆弾
「間もなく目黒、目黒……お出口は左側です」
電車のアナウンスに耳を傾けながら隣に座る梅森に問う。
「あとどれぐらいだっけか」
「次の次ね」
路面図を見ることすらなく一瞬で答えられ、俺は少し関心する。
と言っても渋谷周辺の駅情報なんて一般的な高校生からしたら知ってて当然だろう。
ショッピングなりデートなり、場所を選ぼうと思ったらまず第一の選択肢になるぐらいだからな。
……むしろ今日初めて行く俺が異端なんだ。
その事実が、何だかものすごく悲しく思えた。
「ねぇ、もしよければ貴方の元彼女さんについて詳細を聞いていいかしら?」
いきなり俺に目掛けて飛んでくる矢のような鋭い質問。
途端に緩みがかっていた空気が張り詰めていくのを肌で感じる。
渋谷駅に着くまで俺たちは時間潰しにひたすら会話を行っていた。
朝食の話題から始まり……部活だったり、成績だったり、将来についてだったり……
一息にまとめるなら他愛のない話と言った所だろう。
そんな中、突如として梅森は話題の方向性を変えてきたのだ。
さすがにこれはどれだけ贔屓目に見ても他愛ない認定は無理だろう。
俺は少し悩みつつもとにかく無視はしないでおくことにした。
「それを知ってどうする気だよ……」
呆れ交じりの姿勢で意図を問う。
同時にしっかりと顔を見据えながら。
わざわざ見つめるのは勿論能力を使って本心を覗く為だ。
十中八九現時点で口から出る言葉はどうせ嘘だと予想できるからな。
梅森は髪を弄りながらこともなげに呟く。
「どうもしないわよ。純粋に浮気なんてする人間の事が気になるってだけ」
(どんな馬の骨か知らないけど、相応の報いは受けさせてやるわ……)
成程、貴重な発見をすることが出来た。
どうやら梅森は嘘を付く際に無意識に髪を弄る癖があるようだ。
やたらと俺と一緒に居る時は触れることが多いとは思っていたが……
危なかった。と息を飲む。
正直ほとぼりも冷めかけてた今なら俺はうっかり元カノの話をしていたかもしれない。
もしそうなったらこいつは相応の報いとやらを……その先は考えるだけでも恐ろしいものだ。
あくまで頭の中で考えているだけで行動に移すかは別かもしれないが。
可能性がある時点で俺からしたらアウトだ。
「悪い。まだ軽く話せるような心境じゃないんだ」
きっぱりと言って目論見を事前に防いでおく。
別に復讐なんてするつもりはないし……百歩譲っても誰かに任せる事でもない。
「……ごめんなさい。デリカシーに欠けていたわ」
バツが悪そうに俯く梅森。
(むぅ……やっぱり簡単には聞き出せないか)
が、その胸中は穏やかではなさそうだ。少なくとも復讐に関しては全く諦めていそうにない。
俺は危機感のようなものを感じて顔を強張らせてしまう。
さながら時限爆弾を抱えているような気分である。
何をきっかけに爆発するかも分からないし、被害規模も予想が出来ない。
精々起爆コードに触れないように細心の注意を払おうじゃないか。
そんな決意を勝手に固めながら、俺は電車が目的地まで到着するのをじっと待つのだった。
渋谷で何をするかは……次回のお楽しみです