火の玉ストレート
何故わざわざ俺なのか、完璧には分からない。
あくまで俺は向こうの心が見えるだけ。
都合よく真意を探る事までは出来ないのだ。
とりあえず如月の弄りには適当に反応しておく。
「別に……一人でいいんだよ俺は」
ぶっきらぼうに言ってやるが強がりと言われたら否定はできないな。
梅森の存在はさておき、確かに普段の俺の過ごし方を見ればぼっち認定はやむを得ない。
極力人と関わろうとせず会話を試みても一言二言で詰まってしまう。
彼女の存在は否定する理由になり得たかもしれないが……それも所詮は過去の話だ。
そもそもこいつは俺に恋人が居たことすら知らないんだろうがな。
如月は重いため息を吐いて可哀そうなものを見る目を向けてきた。
「あのねぇ…本当それじゃ駄目。人脈が命の業界を生き抜いた私のお墨付きよ?」
容赦と反論の仕様が無い火の玉ストレートの言葉が俺の胸に突き刺さる。
シンプルな現実を突きつけて有無を言わさず己の意見を通す。
更にアイドルとしての経験則も織り交ぜているので説得力も高い。
大したものですね、と感嘆の声を漏らしてしまいそうな程理想的な説教だ。
直接食らってる側でなきゃ手放しに尊敬できたかもしれない。
だがあまりにも直球過ぎるのでもう少しオブラートに包めよと言いたくもなる。
お墨付きって単語をマイナス面で使うのもどうなんだ。
俺はそんな思いをぐっと胸にしまい込んで、椅子に座りながら軽く頭を下げる。
「……ありがとうな。心配してくれて」
「え?」
予期していなかったであろう返事に、如月は大きく口を開いて驚く。
現時点での会話はどちらかと言うと煽りの面が強いため一概に心配とまでは言い切れない。
なのでこの光景、傍から見たら美少女相手に自意識過剰を炸裂させるやべー男なのかもしれないが。
俺の場合はきちんと確信を持っている。能力のお陰でな。
(もう…何で雄太郎はいっつも一人になりたがるんだろう。私が何とかしてあげなくちゃ)
メジャー並みのストレートの裏に隠れた彼女の本心。
それは独りを貫こうとする俺に対しての純粋な心配だった。
さすがにこれを聞いて文句を言う気は起きない。
頼んだ覚えこそないが、とにかく向こうは責任感のようなものを感じてくれているんだ。
私が何とかってのは少し欲張りすぎだとも感じるが……元アイドルだしな。
むしろこれ位の自信を持たないとやってられないのか。
その思いを汲んで即陽気になれはしないが、せめて感謝位はしておくべきだ。
普通の人間は心の奥まで他人のことについて考えられはしない。
自分を優先する人たちを悪い奴らだと言う気は無いが、彼女を良い奴だと判断する分には問題ないだろう?
こんな感じで時に人の優しさに気付ける部分は、この能力の紛れも無い利点だ。
「心配なんてしてない……わけじゃないけどそんな……きゅ、急に何言ってんの!?」
(心配……はしたけどべ、別にそこまでじゃないし…びっくりした)
俺の言葉に如月はもじもじと照れ臭そうに指を動かしている。
口から出るのと大して変わらない心の声が面白い。
同じ思いが重なって聞こえてくるのだからな。
俺は喉の奥でくくっと笑う。
如月はそれを見て盛大に首を傾げる。
「……何で笑うのよ!?」
(……何で笑うのよ!?)
「ぶはっ!」
最終的には綺麗にハモり、堪えきれず噴き出してしまった。
ここまでがプロローグ、お付き合いいただきありがとうございました
ちなみに主人公が綺麗に心の声と現実の声を聞き分けられるのはご都合手的な何かです。