超人気アイドルが活動休止してまで高校に通う理由
ヒロイン経歴説明回
あくまでこの世界でのアイドルですので現実との矛盾があっても目をつぶってくださると助かります。
12人組の時計をモチーフにしたアイドルユニット。【クロック】
メンバーをそれぞれ1から12までの数字に振り分けて踊らせるという……何とも斬新な発想だ。
その奇抜さ故に視聴者の目を引き、みるみる人気が出たんだと思うがな。
どれ位有名かと言うと、もう今時の高校生で知らない者などほとんどいないんじゃないだろうか。
家に帰ってテレビを見る人間ならバラエティなり音楽番組なりで姿を見たり……
最低でも名前ぐらいは聞くだろう。
それ程クロックは連日世間の注目を集めているのだ。
如月はその中でも重要なリーダーである、0のパートを担当している。
芸能界名義での彼女の名前は時目 零。まぁそのままポジションから取った感じだな。
髪型は美しく整えられた栗色でウェーブ状のセミロング。
大きくもバランスの取れた目元。
ぷっくりと小綺麗に膨らんでいる唇。
まるで雑誌の表紙をそのまま切り取ったかのような美少女が自然と俺に話しかけてきているんだ。
一応中学3年間を手芸部で共に過ごしたよしみはあるが……
それでも如月の顔を凝視しているとまるで世界が切り替わったような錯覚に陥りそうになる。
何処を見ても欠点を見出せそうにないほど完璧具合。
俺とはまず性別が違うんだが……それでも同じ人間とは思えないレベルだ。
実際多少なりメイクはしているんだろう。
しかし化粧全般禁止だった中学時代と比べても、俺にはそこまで変わってるようには見えないな。
95点が98点に上がった……的な印象だ。
元がそもそも高得点過ぎる為に微々たる変化が目立たない。
さて、そんな人気アイドルが高校なんて行ってる暇はないだろ。と思う人も居るだろうが……
その点に関してはとある事情がある。
約3ヶ月前、中学の卒業式を終えた如月は突如メディアに発表を行ったのだ。
「私、時目零は高校の入学に伴い…学業に専念する為暫く芸能活動を休止させていただきます」
それから三日間ほどはテレビもネットも終始話題がこの発言で持ち切りだった。
人気絶頂中のグループのリーダーが突然の休止宣言。話題にならない方がおかしいだろう。
実際俺も初めて知った時は驚きのあまり椅子から転げ落ちたほどだ。
同じ高校に入りこそしたが……もう如月はアイドル活動に専念して会う事もないだろうと思っていたのに。
「率直に、今の時期に休止をしてまで高校に行こうとする理由をお聞かせ願えますでしょうか?」
発表の際に居た一人の記者が如月に問う。
まさに全員の気持ちを代弁してくれた、最大の疑問点。
普通の人間とはかけ離れた道を歩んでいたんだ。今更戻る理由などあるのだろうか。
それに対して如月は堂々とした笑顔で答える。
「活動を蔑ろにする気はありませんが…今は高校生として何よりもやりたい事があるんです」
その言葉を聞いて異論を唱えようとする者は居なかった。
まだ15の少女が、輝かしい経歴を天秤にかけてでも高校生活を送りたいと言ったのだ。
決意の重さは……本人が一番痛感しているだろう。
だったら、周りの人間に出来ることは如月の意思を尊重してやることくらいだ。
普通の高校生としてやりたいことを……思う存分堪能させてやろうと。
そして話は現在に戻り……
何の因果か同じクラスになった如月はよく俺にちょっかいをかけに来る。
俺は鬱陶しく思いつつも何だかんだ数少ない話し相手が居てくれる事に喜びを覚えていた。
何だかんだ陰キャの価値観ではそれだけでも人生が少し明るくなるんだ。
しかし嬉しく思うのと同時に腑に落ちない事があった。
毎日俺にちょっかいをかけに来る意味は何なのかと。
そりゃ意味なんて元からないのかもしれないが……如月は活動を休止してまで高校に来ているんだ。
『何よりもやりたいこと』を果たすために。
俺にかまう暇があったらそれを成し遂げるために色々今の内からやった方がいいんじゃないか?
そんな疑問は、三日前何気なく如月の心の中を見たことによって解決した。
ていうか……現在進行形で俺には答えが聞こえているんだがな。
微妙なもやもやを感じながら如月の言葉に耳を傾ける。
「いやーもう。ぼっちの雄太郎にわざわざ話しかけてあげるなんて優しいなー私」
(あはは……本当は私が一緒に居たいだけなんだけどさ)
もしあのままアイドル活動を続けていればもう一度会える可能性は消えていただろう。
それくらいの激務が迫っているのは、目に見えていたんだからな。
そう、如月の言う『何よりもやりたいこと』とは……俺と送る日常生活だったんだ。