修羅場
予定通り更新できず申し訳ありません
パソコン君が半日泡吹いて再起不能になってました
梅森は学校でも変わらず俺にべったりとくっついてくる。
未だかつてない状況の為話題を生むのは必然だろう。
再びクラス中の視線が集まってきた。
席の前に堂々と居座る梅森には、いつも話しかけに来る如月もさすがに今日は躊躇している。
(何あれ……雄太郎なんかやらかしたの?)
違う。むしろやらかしてるのは梅森だ。
俺は眉をひそめて彼女の行動を咎める。
「お前な。また面倒くさい噂が流れるからやめろって」
「むしろ私は如月さんとの結婚騒動を沈静化させるためにやっているのだけど」
(皆に見られてる……私と井口くんが皆に……!ドキドキする)
成程!とは当然行かない。行ってたまるか。
百歩譲って如月との噂が途絶えるのは良いとして結果的にお前との関係が疑われたら意味ないだろう。
……いやこいつにとってはそれでもいい。てかむしろそれが狙いなんだ。
くそ……裏森は恋愛面では赤子レベルだと思っていたのにここまで手玉に取られるとは……!
クラスの男子からの視線と心の声が痛い。
(は?井口の奴今度は梅森さんととか……どういうことだよ?)
(ワンチャン二股展開とかある?)
更にややこしくなってるじゃないか。ノーチャンに決まってるだろ。
「み、蜜柑ちゃーん。ゆうたろ……い、井口に何してんの?急に」
(何で私のポジション取られてんの?いくら幼馴染だからってそれはダメでしょ)
さすがに黙っていられなかったのか如月がおずおずと話しかけてくる。
一応噂に配慮して苗字呼びをしてくれるのはありがたい。
でも今のタイミングは…ちょっとマズいんじゃないか?
気持ちは分からないでもないが、視線が集まってるんだ。
そしてさりげなく俺の席の前を勝手に自分のポジションと認識するな。
「何もしてないわ。ただ日常会話を行ってただけ」
「……その割には、ちょっと距離近いんじゃないの?」
ぴしっと空気に亀裂が入る。
名前も知らない女子の一人がぼそっと言った。
「……これ修羅場ってヤツ?」
違う。と声を大にして言いたい。
言いたいが……
「まぁ、確かに近いけど……私と井口君の仲だもの。何か問題あるかしら?」
「仲って……!幼馴染だからって言うなら私も一応中学からそうだし!」
「こっちは幼稚園から一緒よ。年季が違うの」
何で今の状況で死ぬほど無益な幼馴染マウントの取り合いをしているんだ?お二方。
これじゃあ修羅場に思われてもおかしくないぞ。
一回本気で止まってくれ、と願うだけじゃどうにもならないのは分かっている。
俺は言い争いを止めようと勢いよく席を立つ。
辺りを一瞥し、大きく息を吸った。
「……違うぞ!別にこれ本当に修羅場とかじゃないからな!!」
教室内に俺の声が響き渡る。
前半は二人に対しての注意、そして後半はクラス全体への補足。
陰キャである俺が声を大にして叫ぶなんて一月前は想像もしていなかった。
付き合いの長い二人はその言葉の意味を誰よりも理解し、しおらしく謝ってくる。
「ごめんなさい……」
(あああああ私の馬鹿私の馬鹿私の馬鹿私の馬鹿)
「ご、ごめんね」
(調子乗りすぎちゃった……雄太郎は噂を気にしてるのに)
中々に胸が張り裂けそうな痛みを伴うが、多少なり怪我の功名はありそうだ。
(うわ、井口が叫んだとこ初めて見た……でもあそこまで言うなら違うのかな?)
(まぁあくまで友達って事なのね)
(え?じゃあまだ俺も時目零とのワンチャン期待していいのか!?)
クラスの何人かは俺の言葉を信じて疑惑を取り下げようとしている。
ていうかやたらとワンチャン連呼してる奴は何なんだ。
期待してもいいんじゃないか?あくまで選ぶのは如月なんだからな。
しかし、大半はまだ納得していないのも事実。
(え~どう見ても二股掛けてるじゃんこれ)
(アイドルと学年屈指の美少女に迫られてるとか……羨ましすぎるだろ)
(弱みでも握ったんか?)
どくん、と心臓が高鳴る。
落ち着け…大丈夫だ。揺れ動く自分に言い聞かせる。
まぁハナから全部ほどけるとは思っていないさ。
少しずつやって行けばいい。時間はまだたっぷりあるんだからな。
などと悠長に思っていたその日の放課後、俺は早速生徒会室に呼び出されるのだった。




