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目覚めたきっかけ

「いや、本当に何でもないって」

まさか心の中を読んでしまってます。などと言えるはずもなく何とか誤魔化そうと試みる。

当然梅森はそんな言葉では引き下がろうとしない。

一応表向きでは俺の怪しい行動を咎めようとしているんだろうが……


「突然理由もなく私の顔をじっと見たと言うの?脈絡もなく?明らかにおかしいわよね」

(え?何々?ひょっとして今日お化粧変かな?それとも焦らされてるの?)


建前と本音が同時に流れてくる。

低く刺すような声音の裏で聞こえるのは同じ者とは思えないような甘い困惑具合。


……困惑したいのは俺もなんだけどな。

例えるならピーマンを食べた直後に角砂糖を口にぶち込まれたような感覚。

ていうか裏では告白されると思っているのか?それこそ脈絡が微塵もないと思うんだが。


本来向き合うべき嘘と、本来聞こえない筈の心の声。

どちらに集中したらいいのか……まだこの能力との付き合い方はいまいち身に付けられてはいない。




「最初から信じてたのってあんただけだから。一人芝居の恋愛お疲れさまー」


恐らく俺が能力に目覚めた原因であろう元カノの一言。

身を引き裂くような思いで浮気の証拠を上げた結果返って来た言葉がこれだ。

しかもこっちを見ずに爪を弄りながら……


心から俺のことなど全くもってどうでもよさそうな態度。


それに涙が出るほど惨めさを痛感させられ、血の味を感じる程歯を食いしばらされる羽目になった。


俺の信じていた、信じたかった関係とはここまで軽いものだったのかと。


「いっそ……最初から全部知れてたならなぁ……」

布団に顔をうずめながらぼそりと声を漏らす。

ありもしない空想に縋るくらいしか出来ない。


それ程までに別れた当日の俺は心を痛めていたのだ。



だが、ありもしない空想は現実となって俺の元にやってきた。



翌日の朝、家の前にはよく餌をねだりに来る野良猫、ミケの姿があった。

ぱっちりとした目でじっと顔を見つめられ……思わず笑ってしまう。

俺はそのままミケの視線に合わせるようにしゃがみ込み、柔らかい頭をゆっくり撫でる。


そうしている間は少しだけ心の落ち着きを取り戻すことが出来た。


何だかんだ……猫は偉大だな。

有難みを感じながらミケの顔をじっと見つめる。

するとそれに呼応するかのようにミケは鳴き声をあげた。

「にゃあ」

(雄太郎さん……心中お察し致しますわ)


「……ん?」


耳を疑った。


いや、俺が聞いたのは鳴き声……だよな。今のは幻聴か……?

そう思いもう一度恐る恐るミケの頭を撫でてみる。


「んにゃ……」

(私を撫でる事によって心に安らぎを取り戻せるのならどうぞご自由に……貴方に身を委ねますよ)


そう言って(正確に言うと思ってか?)ミケはごろんと無防備に寝転んで俺に腹を見せる。

さすがにその光景を見て幻聴などと疑う事は出来なかった。



こうして俺は相手の顔を見つめるとその生物の心が読めるようになっている事に気付いたのだ。

何故?と聞かれるとははっきりとは言えないが……恐らく元カノへの恨みが起因だと推察している。

それ位しか思い当たる節が無いからな。


勿論非科学的だし……更に言ってしまえば非現実的な内容だろう。

それでもこの能力が俺に与えられた現実なんだ。

他人の心の声と過ごして来た一週間がそう確信させる。


これを使って何をするべきかは、今の所分からない。

ただ実際に使って分かった事は三つ程ある。


一つは人……いや、生き物全般は思ったよりも内面はどす黒いという事。

まぁうん、これについては言及しないでおく。

俺のこの曖昧な態度で察してくれとしか言えない。


二つ目、ミケは滅茶苦茶いい猫だという事。

これは一つ目もあって猶更痛感させられる。

彼女に酷い目に会わされたのを理解して撫でさせてくれるとか神か?




そして三つ目……今の俺を悩ませている要因だ。


「今ここできちんと説明しなさい。貴方が隠してる本心を」

(お願い!お願いだからそれは私への恋愛感情であってください!OKする準備はもう出来てるから!)


嫌われていると思ってたクールな幼馴染、梅森は実は意外にも恋愛に夢を見ている乙女で……



その愛情が、俺に向けられていたと言う事実だ。

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