予想外
電車にて、何故か俺は二人に挟まれる位置に座る。
何故かと言っても乗る際の流れでそのままこの場に行きついたんだが。
妙な居心地の悪さを感じて席を動こうにも周りは埋まっているため迂闊に立てはしない。
変な意識を持ってる訳じゃないが……男ならこの複雑な感覚は分かってもらえるんじゃないか?
「いや蜜柑ちゃん本当に可愛いって!絶対オーディションとかすれば芸能界行ける!」
「そんな事…元トップアイドル…に言われても嫌味にしか聞こえないわよ?」
さすがにアイドル関連の話題を大声で話すのは控えるようだ。
容姿の話になってから露骨にボリュームを落とす。
何だかんだで如月と梅森は程よい空気を保ったまま笑顔で会話をしている。
まぁ二人共同じ中学だしな。俺もだけど。
微妙に疎外感を感じながら電車の揺れに身を預ける。
今回も目的地は渋谷。
たかが2回目で知った風な面をするのもどうかと思うが渋谷は本当に何でもあるからな。
だからこそ人が集まる。当然の定理だ。
「……え?猫カフェに行くんじゃないの?」
「いや、今回は普通にデパートで色々見るつもりだけど」
「あーそう言えば蜜柑ちゃんは行き先の相談には居なかったね」
「そ……そんな」
愕然とする梅森。
確かについこの前行ったけど、むしろついこの前行ったばかりじゃないか!?
どれだけこいつは猫に飢えて……いや確かに週一で通ってるとか心の中で言ってた。
なら期待していたとしてもおかしくない……のか?
「ご、ごめんね?えと、どうしよっか?」
「……いえ、別に全然気にしてないから大丈夫よ。」
(うぅ…急に来たからしょうがないけどさ)
気丈に振舞い目的地へ向かおうとする梅森、だがその足取りはどこか重い。
そんな彼女の背を見て如月は何とも心配そうな表情を見せた。
こればっかりは……また今度としか言いようがないな。
「あー涼しい……」
店内に入った瞬間、体に触れる冷気に力が抜けそうになる。
体を蝕むような熱気、おまけにじめじめと後引く湿気。
そんな夏時期の不快感ツートップから一気に解放されたんだ。
さすが渋谷のデパート……いやこれは渋谷関係ないな。
「で、まずはどこから行く?」
入口のすぐ横に設置されている階層ごとにある店を記した表を確認しながら二人に問う。
全7階建てで服屋、本屋、雑貨屋、家具、食品売り場、フードコート……何でもあるな。
一つ一つの情報量の多さに目まぐるしさを覚えそうだ。
マストなのはやはり服屋だろう。
女子高生と言ったら何と言ってもまずはファッション。
俺は服にそこまで頓着が無いため分からないが……普通に2時間以上費やすこともあるらしい。
デートで困ったらとにかく服を見に行けと姉も言ってたしな。
如月がはい!と勢いよく手をあげる。
「私地下一階でやってるマグロの解体ショー見たい!」
「……面白そうね」
女子高生らしさはどこへ行った。
「ほら、行こ行こ!二人共」
待ちきれないと言うように足踏みをしながら如月は地下へ続く階段に視線を向ける。
まるで遠足前の小学生の様だ。
と言っても楽しみなのは俺も同じ。
ここは渋谷の中でもより一層規模が広いデパート、必然品ぞろえにも期待できる。
色々見たい物もあるし……意外な掘り出し物が見つかるかもしれない。
如月ほどでもないが少なからず俺も舞い上がっている部分があったのは事実。
……だからこそ気付けなかったんだ。
「……今の所、異常はないみたいですね」
俺のすぐ背後に迫っていた、もう一人の監視者の存在に。
改めまして多数のブックマーク&評価ありがとうございます
本当に救われるような思いです
 




