サボり
あれからどれだけ経ったのだろうか。というのが体育館の裏に着いた時に思ったこと。
胸を押さえながら息を整えようと何度も咳き込む。
「けほっ……うぅぇほ……」
飾り用のない生々しい嗚咽がそのまま俺の疲れ具合を示していた。
こんなにガチで走ったのは去年の校内マラソン以来だ。
「はぁ…はぁ……結構走ったね……」
(……ヤバい、やっぱ私体力落ちてる?現役時代と比べてかなりブランクあるかも)
一方如月は息を切らしながらもどこか清楚さのようなものを保っている。
まるでドラマの1シーンを切り取ったような見事な絵面だ。
それどころか体力に危機感を感じてるとまで来た。
やっぱりストイックな奴だと改めて思わされる。
元々自分を磨く場所に経ってた人間だからという部分もあるだろうが……
それから最低限息を整えるのに3分ほど費やし
「本当に申し訳ありませんでした」
「本当に申し訳ありませんでした」
(あー私馬鹿、何で逃げたんだろ……)
冷静になった俺たちはお互いに頭を直角に下げて、同時に謝罪の言葉を口にする。
知らない人からしてみればかなり異様な光景だろう。
俺が謝る理由は単純に根本的な原因だから。
そもそもあの時驚きすぎなければ話題になる事も無かっただろうに。
如月の方に関しては安易に逃亡という選択を取ったことに対して。
責める気も資格も微塵として無いが、確かにいい行動だったとは言えない。
このままどちらも「自分の責任です」と延々主張し合うのは最高に時間の無駄。
なので互いに謝って一回状況を整理しようと思い立ったわけだ。
体育館前の階段に座って大きく息を吐く。
後ろからはボールが床を叩く音が聞こえてきた。
俺はちらりと斜めにそびえ立つ時計に目をやる。
「あーあ……もう授業始まってんな」
時刻は10時55分、開始時間を既に10分過ぎていた。
このまま行った所で遅刻は免れないだろうし……それ以前に諸々問題がある。
どうしたものかと考え込む俺の手に冷たい何かが触れる。
「もう3限はサボっちゃおうよ。ほらこれ飲んで」
そう言って如月は俺にスポーツドリンクの入ったペットボトルを手渡して来た。
「サンキュー……」
最低限の会釈を行って、勢いよく飲む。
たちまち体内に不足していた水分と塩分が補給されていく。
まるで砂漠に遭難していた際にオアシスを見つけたような心地だった。
サボり、最後にやったのは小学2年生とかだっただろうか。
罪悪感と今後の不安を抱えながら如月の顔をちらりと見る。
向こうは割と気にしていないようだが……
「ね、いっそこのまま学校抜けてどっか遊びに行かない?」
(この後数学、世界史、現代文でしょ?やだなー)
……気にしてないどころか更にヤバい方へ進もうとしている。
俺は手を左右に動かして否定の意を表す。
ここでサボったら事態が混乱するのは見え透いているからな。
ていうかそれ以前に……まずサボりがダメなんだが。
俺の回答が意にそぐわなかったんだろう、如月はむっと頬を膨らませる。
「もう今日は何やっても変わんないよ。明日から頑張ればいいじゃん……」
「その考えをズルズル引きずった結果終いには不登校になるんだぞ」
説得を試みるとつまらなそうにため息をつかれる。
理解はしてもらえただろう。でも多分納得はまだだ。
出来る限り譲歩はしたいが超えちゃ行けない線はある。
(あーあ……折角雄太郎と二人で遊びに行けると思ったのに)
「折角俺と二人でって……別に休みの日とかにすればいいだろ?なおさら今日を頑張ろうぜ」
遊びなんて別にサボらなきゃ出来ない事でも無い。
半ば約束を取り付けるような形で言い聞かす。
それに対して如月は大きく目を見開かせた。
「え?私今声に出してた?」
「……あれ?」
その反応で、うっかり心の声に返答していた事に気付く。
次回からは如月とデート……二人きりかは分かりませんが……




