最近出来た目標
「ねぇ、最近できた私の目標何だと思う?当ててみてよ」
俺の席に乗り出して突然問い出す如月。その表情はさぞかし楽しそうだ。
まぁ休み時間に話しかけられるのも日常茶飯事である。
……いや、元アイドルと毎日談笑するのが日常は大分麻痺してるな。
で?えーっと目標だっけか?
「お前の目標ねぇ……」
多分、最近って言い方からして俺と話すのとはまた別の事なんだよな。
脈絡も無いために意外と難しい。
数十秒経っても中々これだという択が思い浮かばずに一度如月の顔を覗き込む。
表情から推察できないものかと思ったが……数秒で過ちに気付く。
真面目に考えていた所に予想外の部分からヒントが飛んで来た。
(へへっ一人暮らしはさすがに想像できないでしょ~)
「……」
まさかの本人からのカミングアウト。そりゃ不可抗力と言えば最もだが……
正解を予め出されてどういう選択を取ったらいいんだ俺は。
この能力の欠点がまた一つ浮き彫りになってしまった。
問題とかクイズをやる際に否が応でも答えが分かってしまう場合がある。
他にもサプライズやドッキリとかの唐突の驚きを主題にしたものとも死ぬほど相性が悪い。
例えば誕生日を目前に友人とこんな会話をしたとしよう。
「あーそういやお前もうすぐ誕生日だったっけ?わりぃ俺何も用意してねーわ」
(ま、本当は皆でパーティやる準備までしてるんだけどな!)
どう思う?
計画を知らなければさぞかしいいサプライズになるだろうが……
最初から分かっていたら驚きも何もない。
むしろ喜ばせようとする相手に合わせて無理にリアクションを取らなきゃいけないまである。
俯いて現状を憂う。
俺は今後人生において驚愕という感情を抱くことがガクンと減るのかもしれない。
あながち悪い事ばかりでもないが、めちゃくちゃ退屈になると言ってしまっても過言じゃないぞ。
これからは誕生日のサプライズすら素直に受け取れないのがほとんどだ。
そんな顛末を避けたいなら一生人から顔を逸らして生活をしなければならない。
どちらにせよ……悲しい生き方だな。
……え?そもそも誕生日を祝ってくれる友達なんて居るのかって?
それはまぁ……うん、この話はもうやめにしようか。
「目標……糖質制限で-5kgダイエットとかか?」
結果的に俺が出した結論はあえて正解を外す事。
さすがに一人暮らしって回答をぴったり当てるのは不自然だ。
だから適当にそこら辺の女子高生がやってそうな行為を口に出しておく。
如月は大きく胸の前に両腕でバツを作る。
「ぶっぶー!正解は一人暮らしでしたー!」
「な、なんだってー。そんなの全然予想できないぞ」
「えへへ!びっくりしたでしょー!」
(わーい!驚いてる!)
割と大袈裟すぎてバレるかと思ったが如月は俺の大根役者っぷりを疑う気配はない。
いや何だこの茶番は……
若干気落ちしながらも空気を入れ替えるように俺は理由を聞き出そうとする。
「で?何で一人暮らしなんてしようと思うんだ?」
俺の質問にびくっと如月は肩を震わせる。
そして一瞬顔を赤くしたと思ったら急にぷいっと窓の外を向き始めた。
そのお陰で如月の内なる声はぷつんと途切れる。
「ど……どうした?」
……俺何かマズい質問したか?
や、別にここで理由を聞くのって変じゃない……よな?
妙な不安に駆られていると、如月は恥ずかしそうにとんでもない言葉を口にした。
地雷を踏んだと杞憂を浮かべていた俺の頭を吹き飛ばすような……
今までの文脈からは想像すらできないようなものだ。
「……まぁ、将来のその……結婚した後の事とか考えて、的な?」
「は?……け、結婚?」




