サジェスト
如月真帆のプチ掘り下げ回です
番組が終わると俺は自室でパソコンの電源を付けた。
そうして検索欄に【時目零】の名前を入れてみる。
やった理由は何となく。
強いて言うなら地上波で久々に名前が出たものだから、世間はどんな反応を示したかが気になった。
結果から言ってしまえば見るべきではなかったがな。
「……何だこりゃ」
目の前に浮かぶ酷い有様に顔を歪ませる。
時目零 引退 裏話
時目零 クロック いじめ
時目零 高校 本名
時目零 整形
時目零 熱愛 共演俳優
時目零 アンチスレ
名前を入れただけで出てくるサジェスト達。
その大半が見るに堪えないものばかりだった。
勿論これが全てじゃないのは充分理解している。
ただ……初っ端からこんなんが山ほど来るのはさすがに度を越えているんじゃないのか?
恐る恐る、最初の方から概要を確認していく。
そして30分後……
俺はごろんとベッドに寝転がって大きくため息をつく。
「マジでくだらねぇ……!」
精一杯の侮蔑の念を込めた呟きが部屋にこだまする。
何で調べちまったんだ俺は。
当然だがどれだけ掘りつくしても出てきた記事やスレッドは全部憶測。
これがこうだのあれがどうなのと言うが……いちゃもんでしかない。
勝手に一挙一動を深読みして妄想を並べ立てるだけ。
そんなものがこのネットの中には呆れる程多く存在している。
その上さもそれが真実であるかのように堂々と記されているからタチの悪い話だ。
以前、放課後の教室にて二人で話した記憶が脳裏に浮かぶ。
「お前、何でアイドルやめちまったんだよ」
「んー?だから言ったじゃん。高校でやりたいことがあるから……内容は教えないよ?」
「それは分かったけどさ……良いのかよ?あっさりトップの座を手放しちまって」
これはまだ俺が心を読めるようになる前の話だ。
急いで帰る予定も無いため如月と勢いで夕暮れまで駄弁っていた最中にふとした質問。
あれだけ活躍してたのに、あれだけ時目零として脚光を浴びていたのに。
それを捨てて普通に高校生活を送っているのがずっと不思議でならなかったのだ。
如月はうーんと少し考える素振りを見せた後にゆっくりと窓の外を見つめる。
そうして俺の方から顔が見えなくなった所でぼそりと言う。
「まー……そんなアイドルって楽しい事ばっかでもないしね」
……意外とそんなもんか。と軽い気持ちで俺は如月の返答を受け止めていた。
が、今になってようやくその言葉の重みに気付かされる。
俺が触れたのはまだほんの一端に過ぎない。
もっと深い部分を探れば更に酷い疑惑が出てくる可能性だって大いにある。
いや……確実に存在するとまで言っていいだろう。
如月は芸能界時代から度々エゴサーチをしている事を説明していた。
つまり、自分にまつわる根も葉もない噂の数々も絶対に目にする筈なんだ。
むしろ公言したのは噂を止める為の注意喚起とすら思えてくる。
光がある所には必ず影が生まれる。
最大級の輝きを見せた時目零の裏には、相応の黒い闇が存在していたのだった。
何か暗い雰囲気が出ちゃいましたがそんなに重い話にはなりません
あくまで話の全体の雰囲気はほのぼのでやっていくつもりですので……




