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だけどトオルを“そう”したのは宏人であり、ディザストロであり、政府であり、この世界だ。
一体誰が、そのことを責められるというのか。少なくともそれはディザストロではなく、またディザストロにもそんなつもりは毛頭ない。
ペロリと、その口元を舌先が湿らせる。
「いいね。すごくいい。以前の平凡でつまらない君とは大違いだ」
「つまらなくて悪かったですね」
「大衆に埋もれるためにはつまらない人間の方が得をするから、間違ってはないよ。けれど僕は今の君の方が断然好みだ。思わず血を飲みたいと思うほどにね!」
そう言って、細い指でトオルの喉を撫でるディザストロに、しかしトオルは反応を返さず沈黙する。
だんだん対応に慣れてきたトオルは、この言葉が半ば以上本気ではないと気付いたからだ。
その様子に残念そうにディザストロは肩を竦めたが、やはり本気ではないからかあっさりと手を離す。
首に残る感触が不愉快で、思わずトオルは手の甲で首元を拭った。
「さて。前置きはここまでとして、トオル君はこの後どうするの?」
「そう、ですね……。時間は開けたくない。直ぐにでも行動するつもりです」
「そっかぁ。じゃあこれが最後になるのかな? 寂しくなるね」
「思ってもいないくせに」
「思ってなくても、そう言うのがお約束だろう?」
くすくすと笑い声を洩らすディザストロに、トオルも肩を竦めて苦笑を返す。
出会った頃には想像もしなかった距離感。そんなに親しい間柄でもないのに、いつの間にかこんな近くに彼は居た。
「僕はね、トオル君みたいな人間が狂って壊れて潰れて、そうしてボロボロになっていくのを見るのが楽しかったんだ。でも、今の君は素晴らしい。とても面白いよ」
「またそんな……。面白いかどうか以外で物事を見れないんですか?」
「当たり前だろう? 今更それ以外で刺激なんて得られないよ。つまらないか愉しいかなら、愉しい方がいいのは鬼も人も変わらない。それはトオル君も同じだろう?」
その言葉には返事をせず、ぐいっと手元のコップを傾けてお茶を飲み干した。そのままコップをシンクに置き、トオルはリビングを出る。自然と足が向かったのは、宏人のいる寝室だった。
中には入らずに、扉を開けてその場で立ち尽くす。
そうしてゆっくりと、頭を下げた。
「さようなら。いってきます」
声は聞こえない。当たり前だ。返事ができる人間は、誰も居ないのだから。
廊下を歩く。玄関を出る。考えるのは、今までの思い出ではなく、これからのこと。
目的を果たさなくてはならない。そうでなければ、宏人に合わせる顔がないのだ。
だからトオルは、どこまでも非道なことをしてみせる。酷いことだって躊躇わない。そうでなくてはならない。
誰でもない。トオルが、そう決めたから。
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