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「結局さ、誰が何をしようと、誰が何であったとしても、何も変わらないんだよね」
「……なんですか? 藪から棒に」
宏人の部屋でそのまま仮眠を取った翌日。寝起きのトオルに唐突に投げられたのは、ディザストロのそんな独り言だった。
死体となった宏人のことは既に二人の意識にはなく、席に着いた彼らは当たり前のように冷蔵庫からお茶を取り出す。
本来なら人が死んだ家の中の物を勝手に触っては、指紋などからその死と関係性を疑われかねないだろう。
けれど今回死んでしまったのは異端性吸血人間の宏人である。存在を秘匿されている彼の肉体を検死などで調べられては、吸血人間の存在を知られかねない。
死体が発見されたとて警察の捜査は当然入らず、政府により死を偽装されひっそりと処理されることになるだろう。
そのため、ディザストロはもちろん、それを知らないはずのトオルですら、そんな些細なことに頓着するはずもなかった。
「宏人は異端性吸血人間で、トオル君は半吸血人間で、僕は純血の吸血鬼で。種類は違っても種族は同じ者同士。なのに君や宏人は人間に近く、僕は異形に近い」
「そりゃ、俺は元々人間ですし、宏人さんだって人間として育って来ていたんですから。それに近いも何も、ディザストロさんは元々異形でしょう?」
「ふふっ。言うようになったねぇ。そう。元々君たちは人間として、人間寄りに生きてきた。だけどたった一つ。何かが違っただけでこうも簡単に異形の存在へと変化する。まるでオセロのようじゃない?」
「……だから、それが一体なんだって言うんですか?」
トオルがディザストロに対し遠慮がなくなったことがそんなに面白いのか、くすくすと小さく声を洩らして笑う。
しかしトオルの再びの問い掛けにピタリと笑い声を収めると、真っ直ぐとその瞳を見つめた。
「誰が何者であるかなんて、大した意味は持たない。そんなものは何か一つのキッカケでどうとでも変わるからだ。だから誰が何者であっても、その結果何をしようと、結末は変わらない」
それはきっと、宏人が死ぬことが決まっていたように。
それはきっと、トオルが半吸血人間になってしまったことのように。
それはきっと、ディザストロが吸血鬼であることのように。
「そして君のこれからの行動も、きっと同じなんだろう」
「そう、かもしれませんね。俺が何をしようと、大局的には何も変わらないのでしょう」
「それでもこんなくだらないことをするのかい?」
その言葉に、トオルは小さく笑う。
まるで何かを諦めたかのように。まるで何か大事なことを決意したかのように。
すべてを「どうでもいい」と投げ捨ててしまったかのような、とても幸せそうな笑顔だった。
「そんなくだらないことに命を賭ける馬鹿がいてもいいでしょう?」
「へぇ?」
「俺は大衆への変化なんて望んでません。たった一人でもいい。俺が自分として影響を遺せたなら、それで満足なんです」
それは、正常とは言えないのだろう。むしろ狂っている方なのかもしれない。
その言葉はそのまま、自分のような人間を作ろうとしているということなのだから。
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