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ディザストロは「復讐したいなら」と言ったけど、トオルの中でその答えが出たわけではない。
確かにトオルには宏人に復讐するだけの理由があり、宏人もそれを否定しないだろう。
しかし、トオルが復讐したいのかと問われれば首を傾げる。トオルには復讐する理由があっても、それは復讐する動機にはならない。
だからといって、きれいさっぱり全てを許す、なんてこともない。
……それならなぜ、トオルは現在走っているのだろう?
どうして汗を流して必死になっているのだろう?
どうして、宏人の無事を祈っているのだろう?
「宏人さん!」
長い距離を走ったはずなのに、まるで一瞬のように辿り着いた宏人の部屋。どうして辿り着けたのかは分からない。
ただ何かに突き動かされるように玄関に飛びつくも当然鍵は閉まっていて、慌ててチャイムを鳴らす。
そこからは少し驚いた様子の宏人が出てきて、どうした? なんて聞いてくれるはずだった。ディザストロの言うことを真に受けるな、とか、呆れながら忠告をくれるはずなのだ。
それなのに固く閉ざした扉は、なんの反応も返してくれない。
「宏人、さん? なんで、あ、でんわ……」
今すぐ手が離せないのかもしれない。もしくは、寄り道していてまだ帰っていないのかも。
少しだけ震える手で携帯を取り出して電話を掛けるも、部屋の中から薄らと音が聞こえるだけで応答はない。
ならお風呂かもしれない。それなら玄関に来れないだろうし、電話も出れないだろう。
しかし十分経ってもニ十分経っても、玄関も携帯も応答はなかった。
「何で、なんで、どうして! 宏人さん、ひろと、さ……」
「……ヒロ、出ないの?」
携帯を耳に付けたまま扉を叩いていると、横からかけられた声に勢いよく顔を向ける。
そこには路地裏に置いてきたディザストロが、心なしか困惑したような表情で立ち尽くしていた。
ふらりと、トオルの足が動く。
「ディ、ザストロさん! お願いします! 宏人さんを、宏人さんの様子を!」
「……トオル君。気付いているんでしょ?」
「お願い……きっと寝てるか、倒れてるんです! 中の様子を、手遅れになる前に!」
「気付かないフリは、ヒロにも失礼だよ」
「いや、違う。ちがう。だって、さっきまで!」
ディザストロは、ポケットから取り出した鍵で扉を開錠する。そしてそのままトオルの手を引き、室内へ足を踏み入れた。
進みたくないのに、トオルの意思とは関係なく足を進ませられる。
行きたくなんてない。何も、見たくなんてないのに。
だって、本当は気付いていた。ディザストロの言う通り、気付いていたのだ。
気づかないはずもない。この、玄関越しでも感じた濃い血の匂いに。
濃い、死の匂いに。
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