表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半吸血人間  作者: 華穂
45/58


 家まで送り届けてもらったトオルは自室へ向かい、扉を閉めるとその場に座り込んだ。

 相も変わらず共働きの両親はまだ帰宅しておらず、無言のまま自室まで直行しても咎められることはない。

 今日は一日で色々なことが起こり、たくさんのことを知った。それらについて考えなくてはならないのに、何から考えればいいのか分からない。

 修学旅行のこと。ディザストロのこと。吸血鬼のこと。宏人の過去。異端性吸血人間の寿命のこと。自分のこと。

 どれが緊急性のある内容で、どれが自分にとって重要なことなのか。何に悩み、何の結論を出すべきなのか。今のトオルには分からない。取捨選択ができない。

 ただ一つハッキリしているのは、宏人の寿命があと二ヶ月ほどしかないという事実だった。


「俺は、どうすれば……」


 違う。トオルは頭を振る。

 どうすればじゃなく、どうしたいかだ。義務ではなく、トオルの意思一つで選べてしまう選択肢。それは自由であるからこそ恐ろしい。


 トオルは立ち上がり、今閉めたばかりの扉を開いて廊下に出る。両親へ帰宅が遅くなる旨のメールを送り、外へ飛び出した。

 何も考えたくない。沸々とした苛立ちが、トオルの内側から湧き上がる。

 どうしてトオルが悩まねばならぬのか。

 望んで得た現状ではなく、巻き込まれて陥れられた状況。ディザストロも言っていたではないか。トオルは被害者だと。

 そうだ。トオルは被害者だ。自分は被害者なのだから、何も悪くない。


「そう。君は何も悪くない。被害者である君に、罪は発生しない」


 目的もなく適当に歩き続けた先。まるでトオルの行き着く場所が分かっていたかのように、気が付けば目の前に笑顔のディザストロが立っていた。

 ざわざわとした騒めきが遠くに聞こえる。ふわりと優しく握られた腕が引かれ、人混みから連れ出された。

 自分の意思で歩いているはずなのに、足取りが覚束ない。ディザストロは警戒しなくてはならない相手のはずなのに、誘導されるままに足が動く。

 それがディザストロの、吸血鬼の能力による、思考低下や思考誘導を可能とする「魅了」であるとは、トオルには分からなかった。


「君は被害者。被害者なんだ。だからね、あの時も、今日も、何をしても君は悪くない。悪いのは全てヒロなんだから」

「俺、は……悪く、ない……」


 路地の奥まで連れられる。促されて振り返ると、そこには小さな女の子がぼんやりとした表情のまま立っていた。

 その表情は、見覚えがある。忘れられるはずもない。

 あの日、トオルが襲った男の子と、同じ表情。


「子供の血は美味しいよね。酒や煙草なんてものに侵された大人の血液と違い、健康に気を遣われた純粋な味」

「ぃっ……」

「さあ、トオル君も飲んでいいんだよ? だって君は悪くないんだから」


 がぶっと女の子の首筋に噛みついたディザストロは、すぐに引き抜いたその牙に血を滴らせながらトオルを誘う。

 甘い香りが立ち込めてトオルを包み込む。鼻孔を擽る匂いが脳を侵食し、ぼやけた思考を更に鈍らせた。


 だからトオルは、本能のままに足を進める。自分を誘う匂いに向かって。


 目の前には美味しそうな御馳走が、自分を食べてと手招きしている。それをどうして断る必要があるというのか。

 手を伸ばす。ディザストロが付けた傷穴に食いつき、そのまま血液を飲み込む。

 ああ、やはり美味い。子供だからなのか、生き血だからなのか。とんでもなく美味だ。



「……トオ、ル?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ