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半吸血人間  作者: 華穂
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優しさ


 「今日はありがとうございました」

 そう言って去る後姿にかける言葉を、宏人もまた見つけることができずにいた。

 今日一日で必要以上の情報を手に入れてしまったトオルは、これから家に帰って悩むのだろう。吸血人間について。吸血鬼について。政府について。人間について。そして、宏人について。

 本当ならトオルに寿命のことを知らせるつもりはなかったのだ。そもそもこんなに長い付き合いになるつもりもなかったのに。


 本来なら血を吸って捨てて、それで終わりの予定だった。

 それがちょっとした気まぐれから様子を見に行き、そのあまりにも辛そうな様子から助けてしまい、それがいつの間にかこうなった。

 きっとお互いに吸血鬼特有のフェロモンのようなものが働いた結果なのだと思う。

 宏人はトオルがやけに気にかかっていたし、トオルも宏人に懐いていた。まるで自身の手で葬ってしまった妹のようで、兄貴ぶりたかったのかもしれない。

 けれどトオルにとって宏人は、憎んでも憎みきれない恨みの対象となってもおかしくはなかったのに。

 相乗効果でトオルの感情をも塗り替えてしまったのか。半吸血人間と異端性吸血人間の仲間意識によるものなのか。それとも元からそういう性格だったのか。


「お人好しかよ。くそっ」


 例えようのない苛立ちに舌打ちを零す。どうにも胸がむかむかして、暴れ出したいような衝動が収まらない。

 きっとトオルが宏人を責め立てていたなら、こんな思いはしなかった。

 感情のままに喚きたて、宏人のせいだと、どうしてくれるんだと言っていれば、宏人もそりゃそうなると納得できていたのに。


 トオルは普通の人間だ。普通の感性を持った、普通の考え方の、ただの子供。

 それが半吸血人間になってしまったのがきっかけでわずかに歪み、その歪みが正されず捩れ、こうなってしまったのだろう。

 トオルの生き方はとても不器用で、その広くもない背中に無理に背負い込もうとするのが、見ていてとても危なっかしいのだ。

 きっとこのままでは乗せきれずに、大事なものまで全てを落としてしまうだろう。かつての宏人のように。


「馬鹿野郎」

「ヒロも大概だと思うけどね」


 ぼそりと吐き捨てた独り言。それに当然のように返答をしたのは、いつからそこに居たのか助手席に座るディザストロ。

 驚くようなことはない。相手がディザストロであるなら、宏人にとっては慣れきっている。

 大きく溜息だけ吐き、無言で車を発進させた。そもそも愉快犯の気があるディザストロである。トオルの変化が見たいと言っていたし、帰ってはいないだろうとは思っていた。


「それで、どうだった? 寿命の話はしたんだろう?」

「……見てたのかよ」

「いや? けどヒロから甘い血の匂いがしてたし、まぁタイミングは見計らってたからね。トオル君が降りる時ぐらいに吐血してるだろうなって」

「あいっかわらず災厄だな」


 災厄。

 ディザストロとは、イタリア語のdisastoroから取っており、日本語で災厄の意。

 これはそもそも名前というものを持っていなかったディザストロへ宏人がつけた名前だ。

 イタリア語にしたのは、ディザストロが来日する前住んでいたのがイタリアだったから。当然、嫌がらせと悪意満載で付けた。





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