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半吸血人間  作者: 華穂
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「それに人間は面白い。僕らと違い寿命があるくせに、記録というバトンを次代に渡すことを当然として研究を続ける。欲深いくせに、時が来れば引き継ぐことを躊躇わない」

「それは、寿命があるから、でしょう?」

「かもしれない。でもそれなら、別に引き継ぐ必要はないはずだよ? 自分一人で抱え込み、それが齎す富も栄誉も自分だけのモノにしたって構わないはずだ」

「でもそれじゃあ、いつまで経ってもそれ以上には行けないから……」

「その発想が面白いんじゃないか! それ以上を望むのも自分で、それ以下の成果も自分! なのに何故自分以外に結果以外を、過程を知らせる必要がある? 自分は寿命でそれ以上に行けないのに! どうして他人にその権利を譲渡するのか、理解に苦しむよ! あっはは! ああ面白い! これだから人間は飽きないんだ!」


 その時、トオルはディザストロが人外なんだと痛感した。痛感してしまった。

 そもそもの成り立ちからして違うのだ。人間同士でさえお互いのことが分からないのに、人外と人間で同じ考え方なんてできやしない。

 トオルにディザストロのことが理解できないのと同様、ディザストロもどれだけ言葉を尽くそうが、本当の意味で人間を理解できないだろう。

 それはとても残念なことで、どうにも仕方のないことなのだ。


「ふふ。それじゃあ、僕は帰るよ。トオル君はヒロに送ってもらいな」

「え? そんな、急に……」

「言ったでしょ? 僕は君に興味がある。どうしようもなく退屈でつまらない君が、どう変わるのか、変わらないのか。そのためにも、ヒロと二人で話す時間は必要だよね」


 __愉しんでいる。トオルはハッキリとそう感じた。

 寿命の無い、悠久の時を生きる吸血鬼にとって、愉悦と娯楽は何よりの楽しみ。

 自分の生死すら頓着せず、楽しんでみせたような存在だ。ここで抗ってみせたところで、何の意味もないのだろう。

 案の定ディザストロはトオルの反応を待たず、換気に開け放たれていた窓から身軽に外へ飛び降りて行ってしまった。

 反射的に慌てて窓へ駆け寄り覗き込んだ窓の下には、何事も無かったかのように歩き去る後姿が見えるだけ。しかしそれもすぐに見えなくなってしまった。


「えっ……ど、どうしよ……」


 残されたのは、マヌケにも窓の桟を握り締めて呆然と立ち尽くすトオルのみ。

 びゅうっと吹いた風が、そんなトオルを冷たく嘲笑う。

 どうしようなどと言っても、選択肢は初めから一つしか無いのは分かり切っている。元々宏人の車で移動する予定だったのだからお金なんて最低限しか持って来ていないし、そもそも道が分からない。

 近くにバス停はあるが、どこ行きへ乗ればいいのかも、どこで降りればいいのかも分からないのだ。とても手持ちのお金で足りるとは思えなかった。

 だとするなら、やはり取れる方法は宏人に送ってもらう。これしかないだろう。気まずさや申し訳なさはあるが、だからといってずっとここに居るわけにもいかない。


 一度大きく深呼吸して、気持ちを切り替えてから窓を閉め、アルバムを片付けて部屋を出る。

 さて、宏人はどこに居るだろう。車の音はしなかったし、宏人がトオルを置いて帰るとも思えないので、この隠れ家には居ると思うのだが。

 階段に足を掛け、まずはいつも宏人と話すリビングへ行こうとしたその時。

 ふわりと香る甘い匂いが、トオルの鼻孔を擽った。


「宏人、さん……?」


 何故そう思ったのか、トオルには分からない。敢えて言うのなら、吸血鬼の本能、だろうか。

 血の匂い。甘い甘い、吸血鬼にとって極上の御馳走の匂い。


 __宏人の血の匂いだと、瞬間的にトオルは悟った。


 力強く階段を踏み切り、階段を下まで一気に飛び降りる。ダンッと鈍い音が響いた。

 衝撃に一瞬足が痺れるも、それは一瞬のこと。なぜか痛みはなかった。


「宏人さん!」


 場所は分かっている。この匂いの発生地点。急速に狭まった視界はそこしか映さず、飛び降りた勢いもそのままに廊下を駆け抜けた。

 ざぁざぁと水の音がする。その音に紛れるように、小さな呻き声も。苦しそうな、必死に耐えようとしているような、そんな声。





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