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宏人を、追い駆けなくては。
部屋を出る寸前、宏人は明らかに傷ついた表情をしていた。
けれど、どうしてトオルが追い掛けなくてはならない?
トオルだって小さな子供を殺してしまった犯罪者だ。けれど宏人は、宏人のとは、意味が違う。
だって、どういうことだ。家族を殺した? 写真を見た限りでは、仲が悪かったようにも見えない。だってみんな、幸せそうな笑顔だったのに。
宏人自身も部屋を出る前、殺したかったわけではないと言っていた。
と、いうことは。宏人は場合によっては、家族だろうが同胞だろうが見境なく襲いかねないということ。
あんなに良くしてくれたのに。トオルのことすら、いつ襲ってもおかしくないということなのでは?
……いや、違う。今はそんなことを考えている場合ではない。トオルは頭を振って思考を散らす。
今考えなくてはならないのは、宏人を追い駆けることだ。たとえその先で宏人に殺されようと。だってトオルは……
「トオル君、座りなよ」
不意に、後ろから声がかかる。
「知りたいでしょ? 宏人の過去。知りたいでしょ? 異端性吸血人間が、どうやって出来上がったのか。知りたいでしょ? 何故ヒロが、家族を殺してしまったのか」
「何で、ディザストロさんが宏人さんの過去を……」
「長い付き合いだからね。それより僕は期待してるんだ。トオル君が、この話を聞いてどう行動するのか」
「おれ、が?」
「普通でつまらない君が、どう変わるのか。どうも変わらないのか。ふふ、どう転んでもヒロにはショックだろうね。ほら、座って。話してあげる」
再度促され、トオルは迷った。座るべきか、追い駆けるべきなのか。
きっと本当は聞いてはならない。
これは宏人の過去であり、宏人の思い出だ。他人から勝手に聞いて、勝手に暴いていい話ではない。
だけど宏人自身は、きっと聞いても答えてくれないだろう。どれだけ仲良くなったとしても、自身の暗い過去をそう易々と語るわけがない。漫画や小説とは違うのだ。
そこに信頼も信用も関係ない。信頼していようと話せないことは大いにあるし、信用していようと告げられない秘密はある。
トオルは迷った。迷って、けれど結局その手は椅子の背を引いていた。
ああ最低だ。結局好奇心には勝てないのだろう。トオルは自分の好奇心を満たすために、宏人を利用しようとしているのだ。
「あはは。自分に素直だね君は。さて、まずどこから話そうかな」
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