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半吸血人間  作者: 華穂
35/58

異端性吸血人間

宏人の過去編の章となります。


 ゆっくりと、後ろを振り返る。トオルの視界に映ったのは、顔色は悪いものの両足でしっかりと立つ宏人の姿だった。

 無意識に一歩、足が下がる。表情が固まる。何か言わなくてはと考えても、何を言えばいいのか分からない。

 宏人はそんなトオルの表情に何かを察したのか、一度苦しそうな表情を浮かべる。

 しかしそれもすぐに消え去り、キッと一人悠々と座るディザストロを睨みつけた。


「ディロ、てめぇ何言いやがった!」

「いやだなぁ、そんな怖い顔しないでよ。ヒロの想像してる通りさ。たぶんね」

「ってめぇ!」


 ぐっと宏人が腰の横で拳を握る。しかしその拳はディザストロに向かうことなく、だらりと力が抜けたように垂らされた。

 宏人の表情が苦痛に歪む。まるで思い出したくもないことを思い出してしまったかのような。まるで過去を後悔しているかのような。

 しかしいくら待てど、宏人はトオルに対して弁明をしなかった。


「宏人、さん。本当なんですか?」

「……なにが、だ」

「あ、え……いえ、その……」

「ふふ。遠慮しちゃって。いや、ヒロが怖いのかな? 聞けば良いのに。ヒロは自分の両親と妹を殺したのかって」


 ぎちっと、嫌な音がする。それは宏人が食い縛った歯の擦れる音で。あんなに噛み締めては歯が削れてしまいそうだと、場違いな感想がトオルの脳裏に浮かんだ。

 何かを耐えるような表情。湧き上がる感情を、必死に押さえ付けているかのような表情。

 苦し気に漏らされた吐息に、「泣けばいいのに」と何故かトオルは思った。


「そうだ。俺は、吸血人間となった時に、家族を全員殺している」

「しかも全員血を吸って、ね。わぁ怖い。トオル君も気を付けなよ? ヒロに殺されちゃうかもね」

「え……」

「ちがう! 殺したかったわけじゃ……っくそ!」


 ディザストロと宏人が何を話しているのか、トオルには分からない。会話が右から左に流れていってしまって、内容が上手く頭に入って来ない。

 呆然としている間に、バン! と激しい音を立てて扉が閉まる。直ぐにバタバタと足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。

 トオルは閉じられた扉を固まったまま眺める。それ以外、なにも出来ない。指一本すらどうやって動かしたらいいのかも、分からなくなっていた。





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