異端性吸血人間
宏人の過去編の章となります。
ゆっくりと、後ろを振り返る。トオルの視界に映ったのは、顔色は悪いものの両足でしっかりと立つ宏人の姿だった。
無意識に一歩、足が下がる。表情が固まる。何か言わなくてはと考えても、何を言えばいいのか分からない。
宏人はそんなトオルの表情に何かを察したのか、一度苦しそうな表情を浮かべる。
しかしそれもすぐに消え去り、キッと一人悠々と座るディザストロを睨みつけた。
「ディロ、てめぇ何言いやがった!」
「いやだなぁ、そんな怖い顔しないでよ。ヒロの想像してる通りさ。たぶんね」
「ってめぇ!」
ぐっと宏人が腰の横で拳を握る。しかしその拳はディザストロに向かうことなく、だらりと力が抜けたように垂らされた。
宏人の表情が苦痛に歪む。まるで思い出したくもないことを思い出してしまったかのような。まるで過去を後悔しているかのような。
しかしいくら待てど、宏人はトオルに対して弁明をしなかった。
「宏人、さん。本当なんですか?」
「……なにが、だ」
「あ、え……いえ、その……」
「ふふ。遠慮しちゃって。いや、ヒロが怖いのかな? 聞けば良いのに。ヒロは自分の両親と妹を殺したのかって」
ぎちっと、嫌な音がする。それは宏人が食い縛った歯の擦れる音で。あんなに噛み締めては歯が削れてしまいそうだと、場違いな感想がトオルの脳裏に浮かんだ。
何かを耐えるような表情。湧き上がる感情を、必死に押さえ付けているかのような表情。
苦し気に漏らされた吐息に、「泣けばいいのに」と何故かトオルは思った。
「そうだ。俺は、吸血人間となった時に、家族を全員殺している」
「しかも全員血を吸って、ね。わぁ怖い。トオル君も気を付けなよ? ヒロに殺されちゃうかもね」
「え……」
「ちがう! 殺したかったわけじゃ……っくそ!」
ディザストロと宏人が何を話しているのか、トオルには分からない。会話が右から左に流れていってしまって、内容が上手く頭に入って来ない。
呆然としている間に、バン! と激しい音を立てて扉が閉まる。直ぐにバタバタと足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
トオルは閉じられた扉を固まったまま眺める。それ以外、なにも出来ない。指一本すらどうやって動かしたらいいのかも、分からなくなっていた。
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