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「黙れクソ吸血鬼」
ガツンと鈍い音がして、いつの間にか反対の手をトオルに差し出していたディザストロが崩れ落ちる。足元に屈んだディザストロは、痛そうに頭頂部を擦っていた。
ハッと、トオルは意識を取り戻す。
いつからかは分からないが、完全にトオルは呑まれていた。
きっとあのままなら、トオルは絶対にディザストロの問いに頷いていただろう。手を取っていただろう。
心臓が思い出したかのように早鐘を打つ。はっ、はっ、と息が切れて苦しい。
ゆっくりと視線を動かした先には、眉間に皺を寄せて心底不快な表情をした宏人が、拳を握った状態でその場に立っていた。
「いい加減にしろディロ。こいつまでお前の悪趣味な遊びに巻き込もうとするんじゃねぇ」
「痛いなぁ。ヒロの愛情表現は激しくて身が保たないよ」
「気持ちわりぃ」
どくどくと耳の裏で心臓が騒いでいる。
疑問を声に出そうとして、けれど言葉にならず開いたばかりの口を閉ざした。
トオルの目がパチパチと瞬きを繰り返す。
その隙に、すっと宏人の体がトオルとディザストロの間に割り込んだ。
あの。と、ようやくトオルの声が小さく零れる。
「お、二人は、お知り合いなんですか?」
「……全力で否定してぇが、まぁ知り合いだ」
「もう十年になるかな? あの頃のヒロはまだ素直で可愛かったのにね」
「煩い気持ち悪い口を開くな消え失せろ」
じろりと座った目で、未だしゃがんだままのディザストロを睨みつける。対するディザストロはへらへらと笑みを浮かべて宏人を見上げていた。
トオルは宏人の後ろに庇われたまま、逃げることも前に出ることも出来ない。固まった体は動くことを忘れたかのように、ただそこに立ち尽くしていた。
冷たい。
宏人が現れた時、トオルは確かにそう感じた。
それは宏人のディザストロに対する態度だけではない。雰囲気が、声が、目が。そして何より、宏人から放たれる殺気が、ひたすらに冷たかった。
勿論今まで表で生きてきたトオルだ。殺気なんて、たとえ自分に向けられたところでそうとは分からないだろう。
だから今の感覚も、頭に「たぶん」「おそらく」が付く。
たぶん殺気だった。おそらく殺気だった。
けれどそうとしか思えないほど、宏人がディザストロに向けた感情は怖ろしく冷えていた。
「つれないな。また昔みたいに、無謀にも僕を殺そうとはしないの?」
「黙れと言っている。無駄口を叩くな腐れ吸血鬼」
「まぁ、ヒロには僕を殺せないもんね。異端性とはいえ吸血人間でしかない君が、鬼である僕を殺そうなんて、ちょっと僕を舐めすぎていたよ。それに気付けただけでも成長できたんじゃないかな?」
「っだまれ!」
ゆっくりと立ち上がったディザストロと、拳を振りかぶった宏人。
鈍い音が再び鳴り、しかし膝を着いたのは宏人の方だった。
ディザストロは宏人の拳を掌で受けると、その勢いを殺さぬまま軌道を変えて受け流す。そしてがら空きとなった腹へ、思い切り膝を叩き込んだ。
当然感情に任せた攻撃だ。防御のことなど考えておらず、また対策もしていない。
正確に鳩尾を狙われたため、立っているどころか呼吸すら苦しいだろう。
そして宏人の背に庇われていたトオルからは、何が起きたのか全く把握できなかった。
ただ壁となってくれていた宏人が座り込んでしまったので、ディザストロの視線が遮られることなくトオルへ向かう。
その瞳に浮かぶのは、いっそ暴力的なまでに純粋な愉悦であった。
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