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半吸血人間  作者: 華穂
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 煌々と暖かな日差しが降り注ぐ街中。買い物に出掛けるのだろう主婦が行き交うその中を、ふらつく足取りでトオルは歩いていた。

 あの後。トオルは保健医に呼ばれたのだろう見知らぬ男性教諭に再び保健室に運ばれ、水分補給と少しの休息を取ってから早退させられることとなった。

 本来なら誰か迎えを呼んだ方がと言われていたが、両親は共働きである。学校から家までは徒歩で帰れる距離であるし、付き添いも必要ないと告げて一人ゆっくりと外を歩く。

 未だ気持ちの悪さは残っているが、それよりも今はあの保健室に居たくなかった。


 トオルの鼻は、どうやらわずかな量でも血の匂いに敏感に反応するようになってしまったらしい。保健室は本来の薬品の臭いを打ち消すほど、おそらくあの女生徒の残り香だろう甘い匂いに満ちていて。

 どうしようもない生理的嫌悪を感じると同時に、ずっとその匂いを嗅いでいたいと考える自分が、確かにトオルの中に居た。

 すぐにでも離れたい気持ちと、このまま酔いしれていたいという正反対の衝動。どろりとした欲が生まれたのを、ほんの少しの休息の間に何度も感じていた。

 ぐらりと揺れる体を、誰かの家の塀に凭れることで支える。脳が痺れるほど甘美なあの匂いを思い出したくなくて、頭を強く振る。

 けれど体調の優れない状態で脳を物理的に揺らせばどうなるかなど、火を見るより明らかで。トオルは眩暈とぶり返す吐き気を口元に手を当てて耐えた。


「あの、大丈夫ですか?」


 不意に聞こえた声と、肩に触れた温もり。

 突然話しかけられた驚きから固まってしまったが、それも一瞬。ゆっくりと顔を上げた先には、心配そうにトオルを覗き込む人が少し腰を落として佇んでいた。

 年は二十代前半くらいだろうか。トオルよりは年上だが、若くて背の高い、恐らく男性。

 はっきりしないのは、その人物の顔が恐ろしく整っていたからだ。


 しっとりと濡れたような黒髪は短く切り揃えられ、太陽の光を反射して美しく輝いている。少し長めの前髪が影になって見えにくいが、切れ長の瞳は蜂蜜を溶かし込んだようにとろりとした金色だ。

 十人中十人が思わず振り返るような、まるで漫画のキャラクターのようにどこか現実離れした中性的なその容姿。その整った外見に、トオルは思わず見惚れる。

 しかし顔を上げたきり反応がないトオルを心配したのか、その人物がトオルの目の前で手を振ったことにより慌てて意識を戻した。


「あっ、ごめんなさい大丈夫です。ちょっとふらついちゃって」

「顔色、あんまり良くないですよ? お節介かもしれませんが、家まで遠いなら少しそこの公園で休んだ方がよろしいのでは?」

「そう、ですね。ご忠告ありがとうございます」


 確かに、こんな所で突っ立っていては通行人の邪魔だし、余計な迷惑をかけてしまうだろう。

 トオルはわずかに眉を下げながら、五メートルほど先にある公園に向け足を動かす。

 この公園は宏人と出会った公園とは違い、学校のすぐ近くの公園だ。この辺りでは大きな公園で、ちょっとした遊具の他ボール遊びができる広場や幾つかのベンチも備えられている。

 しかしながら体調が優れない中、先程無茶をやらかしたばかりの身。座り込むことはしなかったが、一歩も進めない内に足に力が入らずガクリと大きく体勢を崩してしまった。

 咄嗟に助けようとしたのだろう、目の前の人物から差し出された手が左腕に触れ、ひんやりとした冷たさに目を細める。


「大丈夫ですか? よろしければ、公園まで肩を貸しましょうか」

「い、え。そんな、大丈夫、です。お気遣いありがとうございます」


 心配そうに手を差し出してくれるこの人には悪いが、見知らぬ人に手を借りるわけにもいかない。警戒というよりは、無意識に刷り込まれた日本人特有の常識のような遠慮。

 けれどどんなに強がろうと、力が入らずふらついているのは事実。断ってそのまま歩き出そうとするも、やはり一歩を進めるごとに胃の中身が掻き回されているような不快感に吐きそうになる。


「……失礼」

「ぇ、わっ。す、すみません」


 ぐっと、力強く触れたままの左腕を引かれる。少しの痛みを感じたものの、次いで感じたのは先程より幾分か吐き気が楽になっていることだった。

 どうやらトオルの腕を肩に回し、持ち上げてくれているらしい。体重を預けているためトオルの体への負担が減り、気分が楽になっているようだ。

 それを理解するとともに小さく謝罪と感謝の言葉を述べると、目の前の人物は小さく笑う。

 上品なその笑い声にまた見惚れかけたが、ゆっくりと歩き出すのに合わせ慌ててトオルも足を動かした。


 腕を掛けている肩は見た目よりも広くがっしりとしていて、やはりこの人は男性なのだろう。

 男子高校生の体重を乗せても揺らぎもしない体幹が、そうだと肯定しているように思えた。





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