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半吸血人間  作者: 華穂
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異変


 キーンコーンと、学校特有のチャイムの音が校内に響く。

 その音が鳴り終わらない内に机の上のノートや教科書を閉じたトオルは、徐々に騒がしくなり始めた教室に小さく溜息を吐いた。




 あれから。男に家まで送ってもらい家に着いてから。トオルは部屋に入るまでの間にメールとワン切りの電話を済ませていて、部屋へは寄らずにリビングでお茶を一杯飲み干した。

 水分を改めて摂って一息つき、ようやく肩の力を完全に抜く。男の言葉は疑っていないし、自身の体調と合わせて真実だと思う。

 それでも突然の話の展開に完全には頭が追い付いておらず、気疲れしていたのだと今更になって気付いた。


 トオルは飲み干したばかりの空っぽのコップを見つめる。吸血鬼。半吸血人間。吸血行動。色の変わる瞳に、伸びる牙。フェロモンのようなもの。異端性吸血人間。

 初めて聞く言葉だらけだ。話を聞いていた時は理解したような気でいたけれど、こうして落ち着いてみると何も分からなくなる。まるでフィクションの世界のような、けれどそれは間違いなく自分の身に起きている現実の話だった。

 ぐるぐると男の言葉が浮かんでは消え、消えては浮かぶ。眩暈を起こしているような感覚に、頭を振って手のコップを流し台へ置いた。


「俺は……」


 口を開き、けれど続く言葉は音にならずに首を振った。きっとこの先の言葉は言ってはならない。口にしてしまえば、きっと今ギリギリで保っているものが崩れてしまう。

 部屋で休もうと歩きだせば、そのたびに揺れる視界。体調はもう戻ったはずなのに、足が覚束ない。数歩の距離を歩くのがとんでもなく辛かった。

 そうしてようやく着いた自室。鞄をその場に落としたトオルは、倒れ込むようにベッドへ寝転がるとそのまま意識を落とした。




「トール! もう体調は大丈夫かー?」

「うわっ! ビックリした。後ろから飛び掛かってくんなよ!」


 背後からの突然の衝撃に、先日のことに意識を飛ばしていたトオルは肩を跳ねさせて驚いた。衝撃の犯人はトオルの友人であるクラスメートで、恨みがましく見るトオルをケタケタと笑っている。

 友人はトオルの前の席の椅子を勝手に借りて座ると、トオルと向かい合うようにして話し始めた。

 どうやらトオルが体調を崩していたことを心配していたと伝えたいようだが、わざとらしく大仰に言われると反発したくなるもので。トオルは適当に聞き流すことにした。


 トオルはあの日のあと、学校を一週間休んでいた。翌日になっても取れないだるさと熱に体温を測れば、表示はなんと三十八度五分。慣れないこと尽くしで体調を崩してしまったのだと思う。

 しかし熱自体は二日ほどで治ったが、それまでの体調不良もあったため心配させたのだろう。両親が学校へ連絡し、大事を取って一週間もの間休んでしまったのだ。


 ぼんやりと休んでいた間のことを考えていると、机の中に入れていた携帯が小さく震える。

 無視なんてひどいとウソ泣きをする友人をスルーしてたった今届いたメールを開けば、送信者には「宏人さん」と載っていた。

 自らを異端性吸血人間と称した男の名前を知ったのは、家に帰ってから送ったメールの返信内容で。それまでトオルは男の名前を知らなかったことに何の疑問も抱かなかった己に驚き、新たに知った男の名前をそっと登録した。

 男……宏人とは頻繁に連絡を取り合っているが、内容は簡潔なものだ。トオルの吸血周期が三日と短いため、保存の効かない血液提供の事務連絡。その連絡だけだった。


 血液は主に宏人から手渡しで貰っている。郵送では頻繁に届く不審物の配達に両親が不審がるかもしれないし、もしものことがあって第三者に知られれば大問題となるからだ。匂いだって漏れる可能性がある。

 だから必ず宏人が近くまで車で配達し、その車の中で飲んでいた。

 宏人とトオルは同じ吸血人間とはいえ友人ではない。宏人は同胞と呼んではいたが、仲間ではない。同じような種族にはなってしまったが、前提として宏人は加害者でありトオルは被害者なのだ。

 恨んでいるわけではない。トオルは別に、宏人を嫌っても憎んでもいない。それでも妙な気まずさというのは存在していて、メール文章でさえどこかぎこちないものがあった。





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