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普通でいたかった少年
「きっと、俺が普通の人間のままなら」
ぽたり。水滴が垂れる音が静かな空間に響く。
白かったシャツがだんだんと斑に赤く染まり、元の清潔感なんてどこにもない。
汚い。汚い。なんて汚い赤。
「こんなことには、ならなかったのにな」
ほとほとと、生暖かい液体が目の奥から溢れて流れる。
それを止める術を、俺は知らない。様々な液体に塗れたその顔はとても情けなく、醜く。ああ、汚らしい。
それでもせめて、最後の記憶は誰でも、笑顔が良いから。
醜くても汚くても情けなくても。笑った顔を覚えてほしいから。
「ばいばい」
手の中に握りしめた包丁を、大きく振りかぶった。
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