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6:眠る理由

 Mーα10000の精神が安定したまま数日が過ぎていった。今日も彼はシュンとカナの実験室に訪れる。

「ずっと気になった事があるんですが、聞いても良いですか?」

聞いてきた彼に対しシュンは頷きながら先を促した。カナは会話を聞いてはいるものの画面から視線を外す事は無かった。

「僕達の元になったマサキさんがスリープ状態で眠っているって聞いたんですけど、どうして眠っているんですか?」

シュンは戸惑いながらカナを見た。同じ様に戸惑いの表情を見せるカナと頷き合うと質問をしてきた彼に向き直した。

「他のクローン達にも教えてないことだから本当は秘密にしたいんだけどな。聞かせてやるが他のやつに話さないと約束できるか?」

問いかけるシュンに、はいと言いながら頷いて見せた。


 シュンとカナは助手のクローン達に対して指示を出し、3人で会議室へと向かった。ソファに座るがシュンは相変わらず困った様な表情をしていた。

「彼が眠ることになった理由を話すにはちょっと時間がかかるからゆっくり聞いてくれよ」

そんな前置きをしてシュンは語りだした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺達の暮らすオオゲツは隣国であるアカルと長年抗争が絶えなかった。マサキと俺の婚約者であるユリナは戦闘員として武術を学び、アカルとの抗争に出向いたこともあった。そんなある日長年二つの国で睨み合いをしていた境界線に二人は赴任していた。その時は大きな争いは無く冷戦状態にあったので二人共無事に帰ってくると俺は信じて疑わなかった。


 しかしそれは全く違う結果になった。報告では境界線近くにドラゴンが出現したらしい。ドラゴンに対して二つの国は協力体制をとったと聞いているが壊滅状態となった。もちろんどちらの国も人員と支援の追加を戦地に送っていたので俺自身も志願したが許可が下りることはなかった。戦場からの一報でギリギリの状態でドラゴンの討伐は成功したと聞いた事で安堵したが帰ってきた部隊を見て愕然とした。初期配置されていた部隊の者は酷い怪我や火傷で自力で歩いている者は少なかった。怪我人が運ばれている馬車を順に探していきマサキを見つけた。真っ赤に染まった軍服のマサキに近付き声をかけたが返事はなく苦しそうに荒く呼吸をしていた。そして本来有るはずの左足が無かった。

 俺はどんな形であれマサキが生きていて良かったと心から思った。そしてユリナを探すため馬車を確認して回った。ユリナは布に包まれた状態で帰ってきた。半身を火傷し傷だらけだった。ユリナの存在を確認するように冷たい体を抱き寄せて泣いた。

「帰ってきてくれてありがとう」

俺は夜通し泣いた。誰も声をかけてこない周りには同じ様に泣いている者が沢山居た。ドラゴンは昔から災害として語り継がれていた。その恐ろしさから多くの犠牲者がでたし遺体が残らない者もいた。遺体であっても帰ってきてくれたこに感謝するしかないのだ。


 次の日マサキの病室に向かったが窓越しでしかあいつに会うことはできなかった。あいつには治療ポッドに入れられていた。ポッドには大量の管が繋がっている。意識はまだ戻っていないらしいが足の傷は命に別状はないとのことだ。


 数日間亡くなった者たちの葬儀が行われていた。国中が悲しみに包まれていた。部隊の機関から五日後にマサキは意識を取り戻したが目覚めている間は動揺しパニック状態が続いていた。他の帰還者の話ではマサキ達はドラゴンの出現位置に近かったと言う事なので恐怖を感じた事によるものだとされた。眠っている時間にのみ俺は面会を許されていたのでマサキに会いに行っていた。そう言えばと思い俺は声をかけた

「ユリナの体を連れて帰ってきてくれてありがとよ。本当は二人とも無事に帰ってきて欲しかったけどな」

明るく冗談めかして言ったつもりだったが、上手くは言えていたのだろうか。

「違う、違うんだ。ユリナが僕を守ってくれたんだ。僕はシュンとの約束を守れなった。ユリナを守るという約束を。ユリカが僕を庇ってくれたから僕は生き延びた。ユリナは僕の腕の中で死んでしまったんだ。ごめん、本当にごめんよシュン」

眠っていたマサキが正気を取り戻した様に返事をした。起きている時間はパニックになっていると聞いたがしっかりと会話ができた。後からマサキに聞いた話では俺の声に対して謝らなければと思っていたらしい。


 それからマサキは順調に回復した。寝ていた時間に減った筋肉を取り戻すための筋トレや義足を付けての歩行訓練、辛いはずの日々にマサキは弱音を吐くことはなかった。カナに対してユリナのために生きないととよく言っていたらしい。

 そして一人で歩くことができる様になったある日、マサキが俺の研究室にやってきた。


「俺のクローンを作って欲しいんだ」

思いがけない言葉だった。クローン技術の研究をずっとしていたので不可能でない事は知っていた。実際に動物のクローンは完成している。ただ、人道的観点から人間のクローン作製を実施している者は居なかった。最初に着手して叩かれる事を皆避けていたのだと思う。

「この前の戦いで沢山の人が亡くなってしまった。人が傷つく必要の無い戦いになるはずだったんだ。直接傷ついた者、亡くなった者の家族も深く傷ついている。これ以上傷つく人を増やしたくないんだ」

 決意を込めながら話すマサキに反論することはできなかった。


 その日のうちにマサキの家に行き、彼の言葉を伝えた。

「うちはまだ生きて帰ってきて来てくれたから幸運だ。どんな地獄をあの子が見たのかは解らないができればあいつに協力してやってくれいないか?」

マサキの父親はそう言ったが母親は

「貴方も傷ついているのだから無理して協力しなくても良いのよ。貴方がやりたいと思ったのであれば協力してあげて頂戴」

小さいころから見慣れている優しい笑みでそう言ったのだった。


 暫しの沈黙の後

「あいつと一緒にやってみようと思う」

今後は犠牲が居なくなる様に願いを込めながらそう言った。


「ね!私も一緒にやりたい!私にも協力させてよね!」

先ほどまで黙って会話を聞いていた妹のカナが大声で叫んだ。

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