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3:培養ポット

 白衣を着た男性がMーα10000のデータを眺めている。何度血液検査をしても他のクローン達と違いはない。DNAなどのクローンを構成するデータに問題が出た事はないので今さら血液検査なんかで違いが出るわけがない。彼は意味の無い研究であることはわかっているがこの研究を放棄するつもりはないらしい。この研究が続いてることがあのマサキを生き続けさせる理由でもあるからだ。


 資料から机の上の写真へと視線を変える。写真には今より若い白衣の男性とショートカットの女性、そしてマサキが笑顔で写っている。写真には〈シュン&ユリナおめでとう!これからも僕と仲良くしてくれよ マサキ〉と書かれていた。

 この写真は学校を卒業した時の写真で、シュンとユリナの婚約を祝ってマサキが送ったものだ。彼ら3人は幼馴染でずっと仲が良かった。シュンとユリナが恋人同士になった時も彼らの関係は悪くならなかった。喧嘩は数えきれないほどしていたが、最終的には元通りに仲良く過ごしていた。


 しばらく写真を見つめた後、シュンは部屋を移動する。ロックのかかったドアをカードキーで開けながら通り抜ける。

厳重に守られた部屋には大きな箱が置かれていた。その中の1つに近寄り中の見える場所に座った。中にはマサキが寝ている。

「よう、元気か?」

声をかけるが返事はない。このマサキはスリープ状態に入っているので喋ることは無いし声もきっと届いていないのだろう。それでも彼はお構い無しにマサキに話しかける。

「お前の事は俺が守るからな。どんなにお前にそっくりなクローンを作ったとしてもあいつ等はお前とは違う。お前を失うような事にはしないぞ。ユリナが守った命だ……あいつのためにもお前には生きていてもらわないと」

シュンは寝ているマサキの横顔を見つめていた。



 ピーピーと音が鳴る。

「もうこんな時間かここに来るといつも時間を忘れちまうな」

立ち上がり、また来るからなと声をかけて部屋を出て行った。


 研究室に向かう廊下を歩いていると声をかけてくる人物が居た。相手はマサキのクローンであるMーα8745だ。クローンにクローンの研究の助手を任せているが自分で自分を作っている感覚はどんなものなんだろうかと資料のやり取りをしている中でシュンは考えてい。


 シュンがデスクに座るとカナが寄ってきた。

「またスリープに入ってるマサキのところに行ってたの?」

「そうだよ、意味が無いと判っててもついあいつのところに行っちゃうんだよな。お前もたまには愛しのお兄ちゃんのところに行って来たらどうだ?」

「あそこに会いに行っても意味の無いことくらい判ってるものシュン君みたいに無駄な時間を過ごすのは嫌いなのよ」

厳しい言葉に苦笑いしながらシュンは仕事にとりかかる。


 ドアが開いてMーα10000が入ってくる。

「今日もよろしくね」

とカナが笑顔で話しかけると彼も笑顔でうなずいていた。

「沢山走ることになるけど義足の調子はよさそう?」

「はい、大丈夫だと思います」

「じゃあ行こうか。培養施設の確認とデータのまとめ頼むね」

シュンが助手のクローン達に手短に指示を出してから研究室から出ようとするとカナがにこやかな顔をしてついてきた。

本来はどちらかが一緒に行けば事足りる内容だが他に急ぎの仕事があるわけではないのでカナが一緒に来ることに対してはスルーしていた。

カナはMーα10000と時間があれば一緒に居ようとする傾向にある。周りの人間たちは足が欠損しているから兄と重ねて情を持っているんだろうと言う。兄妹として一緒に過ごしている記憶がこのクローンの中に無いとしても兄の事が好きだったカナにとっては本来のマサキに一番近い存在なんだろうとシュンは頭の中で自分に言い聞かせていた。


 運動設備のある部屋でMーα10000はルームランナーで走っている。シュンが心拍数や呼吸数などでデータを確認する。正直α型からβ型への改良でDNA操作により筋力や呼吸器系の強化が成功しているので、今のタイミングで彼のデータは正直必要ないと言っていい。どちらかと言うと彼の体力や筋力が落ちないように検査と称して運動をさせているのが目的だ。おそらく彼もこの検査の意味を判っているんだろう。検査の結果を彼が確認することは無いし、そのデータの活用方法について確認や提案をすることもない。本来であれば研究に必要な検査やデータ取りであれば他のクローン達と同じ様に俺たち研究者に対して意見を述べたりデータの確認を申し出るはずなのだ。元になっているマサキの性格を基本的に受け継いでいる彼らはマサキと同じ様に勉強家で努力家でもある。戦闘員として配属されてからもシュンの研究についてあれこれ口出ししていたものだった。多少の個体差は勿論あるが、このクローンの行動を個体差とは言えないだろう。寧ろ全てを理解した上で何も言わない事を選んでいる方がマサキらしいと言える。


  カナは自分も運動をしたかったのかMーα10000の隣で走っている。元々運動するタイプではないので既にヘロヘロになっている姿を見て、シュンは俺も体力付けるために少しは走らないとダメかなとか思っていた。最近体力が落ちている事はしっかりと自覚している様だ。


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