2:いつもの白い天井
アラームの音が鳴る。目を覚ました僕は天上を見つめた。真っ白な天井にライト、そしてカメラを見つめる。
「おはようございます。」
アラーム音が止みスピーカーから声が聞こえた。僕は同じようにおはようございますと返事をして起き上がる。起きたばかりで眠い頭はまだぼーっとしているが、毎日来ている寝具から制服に着替えることは造作もないことだった。
しかし着替えの途中で動きが止まる。
「僕にも皆と同じように足があればな…」
左足の義足を見つめながらつい言葉が漏れてしまった。毎日着替える度に嫌でも義足は目に入るので、その度に同じことを考えている。願ったところで足が生えるわけでもなく、しばし義足を見つめた後ため息をついた後に自分の頬を叩いて気合を入れた。結局毎朝同じ事をしてしまっているなと気付くと思わず苦笑いがこぼれた。
自室を出て廊下を歩いていると通り道の部屋から人が出てきた。
「よう、おはよう!」
僕とそっくりの顔の男がにこやかに挨拶してきた。
「おはよう。君は相変わらず朝から元気だね」
僕は朝が苦手だが彼は朝が苦手ではないのが羨ましい。同じ人間から生まれたクローンなのに性格がこんなにも違うものなのかと毎回思っているが、僕が特別他のクローンたちより後ろ向きの性格をしているだけなんだろうな。そう彼は足がちゃんとあるから。こんな事口には出さないけれど、他のクローン達と自分を比較するときに必ずと言っていいほど辿り着くのはこの答えだ。
僕の名前はマサキ、Mーα10000と呼ばれている。マサキというのは僕たちクローンの元になった人の名前だが僕たち全員に同じ名前がもらえている。もちろん同じ名前ばかりなので区別するために番号で呼ばれることがほとんどだ。僕たちクローン同氏は特に仲が良いわけではないが出会えば話をするし、時間が合えば一緒に過ごしたりはする。今食事を一緒に食べる彼はMーβ0012だ。隣にMーβ0011とMー0013が座ってきた。
「今日は剣術練習だろう?」
「豆がつぶれてるから嫌なんだけどな」
特に前触れがあるわけではないが話をしている。彼らは戦闘員への研修生のため、日々武術を学んでいるらしいが、僕は違うので彼らの話に加わることはできない。だが別に居心地が悪いわけではないので気にしない。君は何をする日なんだい?と自然と話を振られた。
「今日は呼吸器系の検査だから前と同じなら沢山走ることになるかな……あと採血もすると思う」
彼らは自分がされるわけではないのに嫌そうな顔をした。
「君は検査ばかりで大変だね。僕らは座学と武術で気分転換できるからまだマシだよ」
「僕は注射が苦手だから頻繁に採血されるのは無理だよ」
彼らは僕のことをそう言ってくるが僕からしたら楽して検査を受けるだけなのだから彼らの方が大変だろうと思う。それに将来的に戦闘員になる彼らは国のために戦いに出たり防衛をするだろうが、僕はどうだろうか。データとして今後のクローンのためになることはあるかもしれないが、僕自身が何かの役に立つのだろうか。他愛無い彼らとの会話をしつつ頭の中ではそんなことを考えてえしまっている。
「僕も足があればな……」
無意識に言葉が漏れてしまってハッとした。他の3人は居心地の悪そうな顔をしている。やってしまったと思ったが漏れてしまい、聞こえてしまった声を取り戻すことはできない。食事をする手が止まり数秒間の沈黙が流れた。時間が止まったかの様な錯覚に陥るが、がたがたっと隣に座りに来たクローン達の音に4人とも我に返る。
「どうしたんだ?皆手が止まってるじゃないか」
座りながら不思議そうに声をかけてきたので何でもないよと返事をしつつ食事を進めた。助かったなと思いながら気まずい空気が変わりホッとしていた。
食事が終わり席を立った。僕たちはこの時間からそれぞれの研修にそって教育を受ける。クローン達は戦闘員として育てられる者、僕たちクローンを作り出す研究者として育てられる者、人間達の生活をサポートする者のがいる。戦闘員は実際に戦争に出陣することもあるが町の警備や要人の護衛をしたりする。研究者は厳密に言えば研修者の補佐だがまあそれはいいだろう。生活のサポートは掃除や洗濯などの日々雑用から介護や教育の場でのサポートなどに細分化される。
簡単な作業で生活をサポートすることもあるが、僕は正式にはどこにも当てはまらない。
基本的は教育は受けているが僕は言わば研究材料と言ったところだろう。勿論だれも僕のことを物として扱うような事はないし、とても親切に対応してくれる。でもネガティブに考えてしまう僕は自分の事を研究材料だといつも自嘲している。
だって仕方がないじゃないか僕は他のクローン達と違い、足を欠損して産まれてしまったのだから。僕たちの元となるマサキが戦いの中で失ってしまった足と同じように。なぜ僕だけがマサキと同じ様になってしまったかはわからないが特殊な症例として僕は研究材料になったのだ。僕自身は僕と同じ個体が今後産まれない事を願いながら研究者の手伝いをしてる。