1:温かい眼差し
「皆さん集まって下さい」
部屋の中に居る子供達に呼びかける声。その声に従って子供たちが周りに集まってくる。集まった子供は20人余りで、男女の違いはあれど全員が似通った顔をしている。
「今日皆さんに伝えるお話は皆さんの元になる1人の人物のお話です」
保育士の女性がゆっくりと話し始める。子供達は5歳くらいの年齢で真剣な眼差しで保育士の女性を見つめている。
「どうですか?」
「やっぱり子供を見るのは可愛いですね」
子供達のいる部屋をのぞく大きな窓の外で男性に問いかけられた老婆はのんびりと答えた。
老婆の乗る車椅子を男性は慎重に動かし、廊下を移動していく。
「アルバムの写真で見た、子供の頃の兄と私にそっくりだわ。何人も見てきたけどそれぞれ違う特徴があるわね」
「100%同じ人間と言うのは流石にできませんね」
「それでいいのよ。クローンでもそれぞれの人生を歩んでほしいもの。考え方や生き方は思うままに違うことを選んで欲しい。貴方と同じようにね」
老婆は懐かしそうに車椅子を押す男性の事を見上げた。
「マサキさんが亡くなったのは私くらいの見た目の頃だとおっしゃっていましたね」
「そうね。私にとって1番色濃く残っている兄の姿は今の貴方にそっくりだわ。それより、やっぱり首の数字は消して良いんじゃないかしら?」
「見た目だけで判断するのが難しい個体もいますから、流石にそれは無理でしょう」
男性は老婆の言葉に豪快に笑いながらそう答えた。
「子供達に兄の話を伝えて欲しいって願いを叶えてくれる貴方達は優しいはね」
「貴女が私達を生み出して下さったからこそ私達がいるのです。貴方の願いであればどんな事でも簡単に叶いますよ」
冗談交じりでそう言った男性に対し老婆は首を横に振って見せた。
「生み出したのが私では無いのは分かっているでしょう。全てはシュンくんが成した事よ」
老婆は目を瞑った。懐かしい日々を思い出していた。