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インサニティ  作者: 鳴海 慶
9/50

赤い水

(成田皐春視点)


 首に巻かれていた包帯の真相は後日明らかになった。鳴瀬には妹が居て、彼女が見舞いの時に引っ掻いて行ったらしい。なんでも傷を付けることが愛情表現に含まれてるとか……ちょっと僕には理解しがたいけど。



 僕がホテルで鳴瀬に助けられた翌朝、別室で気を失って横たわっていた少女、あれはおそらくその妹だったんだと思う。



 名前は「姫歌(ひめか)」さん



 彼女をあの日ぼろぼろに犯した男は彼等の父親だったらしい。空白の三年間のうちに、鳴瀬はその父親を殺していた。詳しいことは何も話してくれなかったけど、話の流れで妹さんの話題に及んだとき、鳴瀬本人から聞いた。

 ……水中で人死には珍しいことじゃなかった、のは、知ってる。

 ろくでもない父親だったみたいだし、復讐と考えれば当然の報いかもしれない。でも、ざまあみろというには鳴瀬の抱えた物が重過ぎると感じるのは、僕が平和ボケした一般人だからだろうか。実の娘を暴行した父親が裁かれもしないだなんて、と考えると、やっぱり水中……夜の街は僕にとっては、恐ろしいところだ。



 怖かったし、それに、少なからず 動揺した。鳴瀬が……人を殺せる奴だ、ってことに。



 僕だったら、相手を殺すくらいならいっそ、自分が死んでしまうだろう。実際家族に対してはそうしようとしたし、もしも戦争だか何か起きたとして、不戦敗でいい、奴隷のように扱われて殺されても、自分が相手を殺せるとは思えなかった。いや、戦場に身を置くことに耐えられなくて自殺するかもしれない。それで数年前のあの時、水中にも行けなかったのだから。



 実の父親を 殺してしまった、元水中の住人。あの鳴瀬が。



 故郷も家族もなくして、まるで湖から陸へあがってしまった魔歌まがうたの人魚だ。僕とは生きてきた世界が違いすぎる。



 なんて、頭じゃ思っていたものの



 それがどういうことなのか、僕にはまだよくわからなかった。

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