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インサニティ  作者: 鳴海 慶
さいかい
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凪いだ朝


 空がうっすら明るんでくる時刻、同ホテル内の突き当たりの部屋。

「酷いな……」

 思わず溢した僕になにも応えず、鳴瀬はその部屋にすたすたと踏み入っていく。

 倒れている少女をそっと抱きかかえた。酷い、傷だらけの少女を。

 その子はとても細くて、褪せたような金色の髪はどう見ても痛んでいた。目尻からこめかみまで痣になり、血が固まってこびり付いている。耳の付け根が抉れて、そこを引っ張ればあっさり千切れそうだ。身体の至る所に裂傷、服では隠しきれないところにも……唇が切れていたけれどそんなもんじゃない量の出血が首を伝って鎖骨に溜っていた。

 蒼白く靄を纏う身体が

 まるで 死体の様で


 正直、恐いと思ってしまった。


 水中に主軸を置く、ということの、実態……いつ、殺されても……それこそヤり殺されても不思議じゃないんだ。それを水面に足の裏が届く程度の浸かり方で、泳いでいくしか無いのかな、なんて考えていた。自分の認識の甘さを思い知らされる。

「……――――、」

 ようやく、鳴瀬が何かささやく。

 名前を呼んだのかもしれない。

 苦しげに眇められた双眸がなんだか 少女への愛情を物語っているような

 しばらくそうして彼女を抱きしめていた鳴瀬は、不意に僕の存在を思い出したみたいに顔を上げた。

「……成田くん」

「あっ、……何?」

 唐突に呼ばれて視線を向けると、丁度こちらを向いた赤い目とであう。

「あのね……成田くんと……たのしかったよ。一緒にいると」

「そ、う」

「そう。ありがとう」

「え……」

「成田くんは、綺麗だね」

 は?

「君はこっちに居るべきじゃないよ」


「また学校で」


 歩いて遠ざかっていく後ろ姿、尾ひれのような髪が揺れる。

 それをぼんやりながめて、不意に笑いが込み上げた。

 また学校で。

 あいつはそう言った。

「ははっ……」

 それは、僕に日常への回帰を促していた。見透かすように。


 その後、鳴瀬が中学に来ることは無かった。




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