帰還
「はっ!ここはどこだ?」
魔王の体に刻まれた魔法を発動して俺は死んだはずだ。
身体もすべてあの魔法陣に吸収されて、消失したはず。
だが今、俺の体は確かに存在してるのだ、五体満足で。
しかしここはどこだ。
「暗いな、しかも寒いし」
あたりを見渡すとどこか懐かしい気がした。
「おい、まさかここって御崎公園か!?」
このベンチ見覚えがある!あの滑り台も錆び付いたブランコも!
「帰ってきたのか……」
俺が向こうの世界に召喚される直前にいた場所だ。
もう8年も前のことだ。
あの日俺はこの公園である女の子と待ち合わせしていた。
思いを告げるために。
懐かしい気持ちでいっぱいになる。
ブーブーブーブー
「ん?なんだこの音」
俺の着ている服から音はなっているらしい。
ポケットにてを入れて音のする物体を取り出した。
「あ、スマホか!なつかしいなぁ」
スマホとの8年ぶりの対面である。
俺ふと疑問に思ったことがある。
なぜ今俺のポケットにはスマホがあるのか。
魔王との戦いの時はスマホなんてもってなかった。
というか向こうの世界にはスマホはもちろん電子機器なんて文化はない。正真正銘8年ぶりの再会だ。
俺は慌てて自分の着ている服を見る!
「おいおい、まじかよ。あの時のままじゃん!」
高校の制服に当時気に入って履いていたスニーカー。
俺はスマホで今日の日付を確認する。
[2019年2月28日]
あの日に戻ってる。高校の卒業式の日だ。
俺が過ごした向こうでの8年は無かったことになってるということか。
魔力はどうだろう?やはりなくなっているのか?
「ファイアボール」
すると手のひらに五センチほどの火の玉が現れる。
魔力は無くなってないみたいだな。
なんだかホッとした。こっちの世界では無くても困らないものだが、八年間死と隣り合わせで手に入れた力だ。
ブーブーブーブーブーブー
またスマホがなった。
誰だ?
暗い公園だからか、それとも久々に目にする人工的な光だからかはわからないが、やけに眩しく見えるスマホの画面には発信者の名前が表示されていた。
[新谷梨穂子
「新谷さん!?」
俺が8年前の今日、告白するつもりで呼び出した子だ。
やばいこれはやばいぞ。
とりあえず電話にはでないとな。
俺は悩みながらも応答ボタンもタップした。
「もしもし?」
<あ!やっとでた!もー何回電話したと思ってるの?>
電話から聞こえる声は8年前の記憶を鮮明に思い出させた。
<もしもーし?アリア君きいてる?>
「う、うん!ごめん!でどうしたの?」
<どうしたのじゃないよ!もうすぐ公園着くよって>
「そ、そっか、わかったよ。待ってるよ」
<うん!それじゃあと五分くらいで着くからね〜!じゃ!>
やばいぞ、これは!
身体はどうであれ、俺はもう26だ。
今更18歳の子に恋心なんて抱いていない。俺とっては子供だ。
どうしようか…………
あ、そうか!
新谷さんは俺が告白するつもりでこの公園に呼び出しふたなんて事は知らないはずだ。
なら、卒業式おめでとう!などと友達として当たり障りのない会話をして。さくっと別れてしまおう。
「こ、これで行こう!」
考えぬいた末俺はなんとか現場を打開する案を見つけた。
―――――――――――――――――――――――――――
公園の入り口から一つの人影がこっちに向かってくる。
「おーい、アリアくーん!」
「新谷さん。こ、こんばんわ」
「こんばんわ!どうしたのアリア君なんかそわそわしてるよ?」
「そ、そんな事ないだろ!いつもどおりだよ」
「ふーーーん。まぁいっか!」
「ていうか、アリア君なんかいつもと違うくない?なんか雰囲気というか色々と。別人みたいだよ?」
そりゃ別人と思われてもおかしくはないわな。
新谷さんと会ったのは実際8年ぶりなんだから。
俺は8年で様々なことを経験した。
口では言えないような悲惨な場面にも遭遇したし、自分がその場面を作り出す事も幾度もあった。
8年前の俺しか知らない新谷さんにとっては、もはや別人だ。
「そうかな?まぁ高校も卒業したし、ちょっとは大人っぽくなったかな!はは」
「ほらなんか、そーゆーとこ!自分に自信があるというか、しっかりしてる感じ!さっき学校で話した時はいつもどおりだったのに」
「まぁ、いっか!」
「ところでさ、そ、その、話があるっていってたけどさ……な、なんの話かな?」
新谷さんは頬をすこし赤く染めて聞いてきた。
あれ?これなんかバレてるよね?告白するのこと。
まぁうすうす、そうなるとは思ってましたよ。
高校生がこんな夜に公園に呼び出して話があるって言ったらもう告白しかないよな。
まぁでも、なんとか押し切ろう。告白しなければいいだけの話だ。
「え、えっと、卒業おめでとうって話とこれからもよろしくなって伝えようと思ってさ。新谷さんに色々と世話なったしな。これから会う機会も少なくなっていくとおもうからさ。」
「は?それだけ?」
あれ、なんか新谷さんの雰囲気がかわってるんですけど。
こわいよ!かなりこわいよ!
「う、うん。それだけだけど……ご、ごめんな、わざわざ呼び出してまで話す内容じゃなかったよな!」
新谷さんは黙ったまま俯いている。
よく見るとプルプルと震えている。
さ、さむいのかなぁー。
まぁ違うよね。
「ありあくん」
「はひぃ!」
「わざわざ誰もいない公園に呼び出してそれだけってことはないでしょう?ねっ?」
「いや、そ、それだけです!」
「うそつき。それだけじゃないでしょ?私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」
あ、あれ?新谷さんってこんな感じの人だっけ?
違うよね!!!いつもの新谷さんどこーーー!
「私、今日期待してきたんだよね〜。木戸くんからさアリア君が私に告白しようとしてるって聞いてさ。嬉しかったのになぁ〜。もしかして全部うそ?」
ハイライトの消えた瞳で新谷さん俺に問いかける。
ていうか木戸ーーーー!
お前のせいでめんどくさいことになっちゃったよ!
8年ぶりの再会なんて知ったことか!
会ったら思いっきり殴ってやる!
「ううう、嘘じゃありません!」
「そ!なら良かったよ!じゃ私に告白してくれるんだよね!」
光を取り戻した瞳で可愛く問いかけてくる。
「い、いや、それとこれとは別といいますか……その……」
「やっぱり嘘なの?私のこと好きじゃないんだ?ふーーーん、全部嘘で私を騙してからかって遊んでたんだぉ〜〜」
また瞳光がきえた。
「そ、そういうことじゃな「じゃ早く告白して!」」
「で、でも「はやくっ!」」
「いや、や、やっぱ「しろ」」
「はひぃ!!好きです!付き合ってください!」
「う、うん!わ、私もアリアくんの事すき。よろしくお願いします。」
「よ、よろしく。新谷さん」
「も〜!梨穂子って呼んで。私は彼女なんだよ〜」
「あ、はい。よろしくお願いします梨穂子さん」
新谷さんはいつもの可愛い新谷さんに戻った。
そして俺には人生で初めて彼女ができた。
この俺の人生でもっとも怖い存在である。
とりあえず元の世界へ帰ってきました。