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有罪電車  作者: 山田木理
2/2

回送電車

 そこは、真っ白な世界。右を見ても、左を見ても、上を見ても、下を見ても、何もない世界。

 舞子は、辺りを見渡した。

 唯一見えたのは、舞子を見ている一人の少年?だけ。

 舞子は不安になって、その少年?に尋ねた。




「誰?」

 僕?僕は、有罪電車の車掌だよ。英語に訳すとギルティトレイン。英語に訳したのは、別に意味なんてない。

「有罪電車って…?」

 それが、何かを別に知らなくてもいいだろう?その意味を知らなくても生きていけるしね。

「ここは?」

 ここは、回送電車の中だよ。回想でも、快速でもなく、回送電車だよ。君は、間違えて、僕の有罪電車に乗ってしまったから、回送電車を走らせて、君を君が降りるべき駅まで送っている。君は、電車の乗り方を間違えて、有罪電車に乗ってしまったんだよ。

 二度と間違えないように、電車の乗り方を説明するから、よく覚えておくように。

 まず、ホームでは、白線の内側で電車を待つ。人が多い時には、整列して待つこと。

 そして、電車が来て扉が開いたら、まず、降りる人が優先だ。それから、乗り込む。

 わかった?

「知っているよ」

 なら、どうして間違えたんだ?君は間違えてしまったから、ここにいるんだよ。

「違うよ。私は降りるべき駅で降りなくて、それから、関西弁のおばさんに会って…」

 あれは、君が見た夢だよ。

「夢オチ…?」

 夢オチって…。まぁ、一般的にはそう言われるんだな。

 あれは、君が有罪電車の中で見た夢だよ。まぁ、僕が見せた夢でもあるけど。

 ちょっとした演出をした方が、今後の電車の乗り間違いを防げるからね。結構、楽しい夢だったんじゃない?

「そうなんだ…」

 でも、忘れちゃうけどね。君は、君が降りるべき駅で降りてしまえば、君はあのおばさんのことも僕のことも忘れちゃうけどね。忘れてはダメなことだけ、覚えていればいいんだ。

「忘れてはダメなこと?」

 え?もう忘れたの?電車の乗り方だってば…

「だから、電車の乗り方ぐらい知っているって。」

 はぁ〜。参ったな。君は、間違ったことを、本当に覚えてないときたか。いいか。よく聞くんだ。

 君は、ホームで電車を待っていた。一応、白線の内側だった。でも、君は、電車がホームに入る直前で、白線の外側に、さらにその奥に足を踏み入れたんだ。そうして、僕の電車に乗ってしまった。この電車に乗ったら、途中で降りることは難しい。君は運が良かったから、途中で降りられる。

「電車が来る直前…、私は、私は…」

 はっきり言うよ。君は、電車にひかれたんだよ。でも、命は助かった。今のところね。回送電車から降りないと、目は覚めない。今は、昏睡状態で君は眠っているんだよ。

「加納友恵の葬式の帰りだった…」

 君は、間違って僕の有罪電車に乗ったんだ。単なる乗り間違い。それで、いいよ。だから、回送電車への乗り換えもできた。君が下りるべき駅では、君を待っている人がたくさんいるよ。

 最近は無理やり他人にこの電車に放り込まれる人もいるんだ。本当に悲しいことにね。

「どうして、有罪電車なの?」

 意味が必要?深い意味はない。車掌の僕が言うから間違いない。この電車は、線路以外にも走っている。どこにでも走っている。三途の川があちこちに流れているようにね。僕は、三途の川って、どうして三途の川って言うのかも知らないから、知りたければ、どっかの坊さんに聞くか、Wikipediaで調べたらいい。

「じゃあ、有罪の意味は?」

 だから、いちいち意味が必要なのかな?でも、説明するのは面倒だし、そもそも僕もよく分からないから、六法全書か、Wikipediaで調べたらいい。

「罪の意味は?」

 だから、僕に聞かないでくれ。知りたければ、世界中の法律書か聖書のような宗教書を読むといい。その中から適当に選べばいい。それぞれ違うからね。正直言うよ。僕には、よくわからない。

「私はわかるよ。罪って悪いこと。人のものを盗んだり、人を騙したり、人を傷つけたり、人を殺したり…」

 そうだね。それは、悪いことで、罪深いことだよ。たぶん。

「私は、有罪?」

 君がそう思うなら、そうだね。

 でもさ、何を罪とするか、難しいね。人を殺しても、罪にならないことがある。例えば、正当防衛、死刑、戦争、とかね。国によっても信じるモノによっても、違うから、だから、僕はよく分からないんだ。僕は単なる、車掌で、裁判官ではない。僕は、間違ってこの電車に乗った君が、ちゃんと乗り換えて、降りるべき駅で降りるようにナビゲートするだけだよ。

 さぁ、そろそろ、君が降りるべき駅が近づいてきたよ。

 どうせ君は僕の言ったことなんて覚えていないだろうが、言っておくよ。君が降りるべき駅は、楽しいことばかりじゃない。むしろ、辛いことばかりだ。そして、誰にも君の辛さを理解してもらえないかもしれない。努力しても何一つ報われないかもしれない。君が世界でいちばん不幸かもしれない。そんなことはない、と思えれば、ラッキーだし、本当にその通りだと思えば、ただ、頷けばいい。

 どうして、そんな辛い世の中を生きていかなければならないかって?

 生きる意味なんか、そんなものは、クソくらえだ。そんなに意味が必要なのか?だったら、生きる意味と死ぬ意味を自分で探し続ければいい。君が答えだと思っても、それは、本当に答えかどうかはわからない。答えは一つじゃないからね。世界中に答えは散らばっている。君の寿命なんていくらあっても足りないだろうね。面倒だって?バカバカしいって?だから、言っただろう?そんなものは、クソくらえだって。あぁ、本当に、面倒だ。僕は単なる車掌だからね。僕の本当の仕事は、僕の電車に乗る人を、その人が行くべき所に連れていくだけだ。

「死神…?」

 車掌と言ってくれ。死神って何だかよくわからない。どうでもいいけど、今度、Wikipediaで調べておくよ。

「加納友恵は、有罪電車に乗ったの…?」

 それは、個人情報だから、教えられないな。

「それで、私は、どうしたらいいの?」

 君は、降りるべき駅で、降りればいい。

 有罪電車に、乗るべき時には、自然に乗れる。だから、乗り方を間違えて、乗られても困るだけだ。僕の仕事が増えるだけだ。

 とにかく、電車の乗り方だけは、覚えておくように。

 まず、ホームでは、白線の内側で…


 電車はゴトン、ゴトンと規則的なリズムを奏で動き出す。

 心臓が徐々に速度を増すようにスピードを上げる。



 さぁ、もうすぐ、君が降りるべき駅に着くよ。





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