ハロウィンの逢魔が時に。
ハロウィンと逢魔が時っていう言葉を使いたかっただけなんです。
ちょっとくっつけてみたかっただけなんです。
鏡の前でくるりと回って自分の格好を確かめる。
うん、大丈夫。黒い猫耳も尻尾も可愛い♪
「イヴ、何度も言うようだけど……」
「お母さん分かってる。明るいうちに帰ってくるから」
「そう言っていつもギリギリに帰ってくるじゃない」
お母さんのお小言を聞いてるといつまで経っても出かけられない。あぁ、きっともう来てる。
「いってきまーす」
「もう、イヴ? 本当に今日は早く帰ってくるのよ」
諦めきれない声が聞こえたけど、それ所ではないのだ。
だって今日はハロウィン。
仮装してる大人や子供が多いからきっとバレない。
今日こそは近づいてやるんだから。
『おい、イヴ』
頭上から声がする。
今日はかまってられないの、急いでるんだから。
『今日は行かないほうがいいぞ』
何言ってるの? ハロウィンなんだからお出かけに丁度いいじゃない。
早くあの場所に行きたいんだから邪魔しないで。
『イヴ、行くなって!!』
もう、その黒い羽をどっかにやってよ。目の前を遮らないで。
『今日はいつもよりも人ならざるモノが多いんだ、やめとけ』
今日こそはちゃんと見てもらうんだから。たくさんの人の中にまぎれたらいつもよりもっと近づける。
あぁ……緊張してきた。気づいてくれるかな?可愛いって思ってくれるかな?
だって皆が違和感に気づいてない。いつもよりカラフルな街並みがちょっと黒をはらんでるけど、きっと大丈夫。
もうすぐいつもの場所に着く。あの角をすぎれば――きっと……
「……え?」
鈍く光る大鎌を持った何かがいつもの場所で赫い何かを散らしてた。
ねぇ、あの人は? 私が大好きなあの人は?
「みぃつけた、いつも僕を見てる黒猫ちゃん?」
「え?」
「いつも僕を見てたよね、夕暮れ時に」
え、待って?
貴方なの? 公園のベンチで静かに人の流れを見ていた貴方なの?
でもずいぶんとまとう空気が違う――――
「お互い様じゃないかな黒猫ちゃん」
もしかして私が見てたの知ってたの? 気付かれてないと思ってたのに。
だっていつもは、いつもは…
それよりもどうしてそんなに違うの?
「なんで今日は顔を隠しているの?」
「ハロウィンだからね。君の黒猫も似合ってる」
「あり……がとう」
「でも僕はいつもの黒猫ちゃんの方が好きだなぁ」
――あぁ、でも僕に合わせて人型になってくれたのかな?――
耳元で囁かれて私の尻尾がピクリと揺れた。
そうなの、少しでも近づきたくて。今日なら猫耳が残っててもバレないと思って……
言葉にしたいのに音として出てこない。いつもと違って怖い貴方にきちんと伝えたくて。
「でも、ごめんね」
楽しそうにいつもは優しい眼が……鋭く細められた。
もしかして貴方も。人じゃない?
「今日は僕の仕事の日なんだよ黒猫ちゃん」
そう言いながら大鎌を振り回していく。
あぁ、そうだ。今日はハロウィンで……悪霊や魔女、他にも色々人にまぎれてて。だからお母さんは早く帰ってきなさいって。よくちょっかいかけてくるカラスも行くなって。
「おいでよ、黒猫ちゃん」
「お母さんが早く帰ってきなさいって」
「僕の為にそんな格好までしてここまで来たのに? もう帰っちゃうの?」
「……仕事中なんでしょう?」
「もうすぐ終るよ、だから……」
大鎌がピタリと動きを止めた。そして貴方は仮面をはずす。
赫のついた大鎌が暗くなり始めた隙間に消えていった。思わず私の動きも止まる。
あぁ、どうしよう。いつもの貴方だぁ……
「一緒に行こうよ、黒猫ちゃん」
「行ってもいいの?」
「うん、いいよ。だけど…」
優しく私を抱き上げた貴方。変身した呪いが解かれて元の黒猫に戻る私。
大きな手が私をなでる。さっきまでの怖さなんて感じられない。
やっぱり好き。少しでも見ていたいの、近くにいたいの。
「僕はやっぱりいつもの黒猫ちゃんが好きだな」
黒猫ちゃんじゃなくって名前で呼んで。
そして貴方も名前を教えて――――
黒猫と死神はハロウィンの逢魔が時に逢瀬を重ねた。
黒猫の仮装をしたと見せかけたイヴという黒猫の恋のお話。
思いついたモノがそこそこ思ったようにかけたので満足です。