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動き出す少女の運命

「まずは、この子の家を見つけないと」

 私の知識はもう役に立たない。

 ここからは未知の領域へと足を踏み入れる。

 本では少女の家の場所の描写はなかった。

 少女の意識だけが頼りとなる。

 私は、少女に家を教えてと語り掛け、マッチを擦り付ける。


 すると、木造で出来た、今にも壊れてしまいそうな家が見て取れた。

 場所は多分、街の外れにあるのだろう。

 周りに明かりとなるものが見えない。


 マッチが消え、家も消える。

 これで少女の家が分かった。今度はそこに行きつくまでの道のりである。

 そう思ってまたマッチを擦る。


 道のりは少女の目線で動いていた。

 マッチは街の景色とは違う、薄暗い光景をずっと映している。


 マッチはそこで消えてしまった。

 マッチの持ち時間では少女の家からここまでの道のりを映し出すのには、足りなすぎる。

 私は少女に語り掛ける。

 体を動かせないかと少女に聞いてみたが、体はピクリとも動かなかった。

 どうも、少女の感情が高ぶったときのみ、体は動かせるらしい。

 となると、移動しながらマッチで光景を確認していくほかあるまい。

 私はその意図を少女に伝えると、マッチを擦る。


 マッチが映し出した光景はこの細い道から、街に出る映像だった。


 私はそれを頼りに、ここから動き始めた。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 それから私は、マッチが消えては壁に擦り付けてを繰り返し、常にマッチに火を灯しながら進んだ。

 あれからだいぶ歩いたように思う。

 ここまでくると、マッチの量も少なくなってきた。なるべく先の分かるところはマッチを節約しつつ、街を進んでいく。奮い立つ気持ちが影響してか、疲れ切っていた体はしっかりと冷たい地面を踏みしめながら歩けている。

 辺りは、街の中心街からは完全に外れて、街灯は一つもない。

 降り積もった雪のおかげで、そこまで真っ暗という印象は受けないのが唯一の救いだった。

 また、マッチを擦って、映し出される光景に目を凝らす。

 少女の目線はすぐ先の角を曲がると、ある家を見て止まる。

 家の装いは、私が細い道で見たときの少女の家だった。

 どうやら、着いたみたいである。

 マッチの光景がまた動きだす。すると、目線はそのまま家の中に入っていった。家の中には椅子にドカッと座る男と、向かいの椅子に座り、机にうなだれる様に頭を預けている女がいた。

 少女が私に見せてくれた、少女の両親である。


 それを見て不意に足が動かなくなる。

 止まった足は尋常じゃないほど震え始めた。寒さからくるものではない。

 これは少女の恐怖心からだろう。

 少女は完全に怖がってしまっている。

 両親と幸せに暮らしたいと思いつつも、家に帰ればまたぶたれると思い、動けないでいるのだ。

 私は怖がる少女に優しく語り掛ける。


「大丈夫だから。私がついてる」


 そう言うと、だんだんと足の震えが治まってきた。

 ゆっくりとだが足が動き出す。

 そして、マッチの映像通り、角を曲がると、一つの家が現れる。


「着いた……」


 なんとか家に着いたことに私は安堵の息をはく。

 安心したのもつかの間、私は緩くなった心を引き締めた。


 ここからが本当の勝負である。


 私は一度深呼吸をしてから、家の壊れかけの扉に手をかける。

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