見つけた一つの可能性
時間がないことは分かりきっている。
私はとにかく頭を働かせて、打破する案を必死にひねり出す。
一番のヒントはこのマッチ棒だろう。
火を灯すと、目の前に何故かこことは違う光景を映し出す。
これまで出てきた光景をもう一度はっきりと私は思い出す。
最初はストーブのついた暖かい部屋。
次に、豪華な食卓。
そして、大きなクリスマスツリー。
何かあるはずである。何故この光景なのか。
少女の体はここまで何も食べていないのか、食卓を思い出したことにより、グーーっと音を立てる。
私は冷え切った手でお腹を押さえる。
「……そうか……!」
私の中で何かが閃いた。
今、少女は寒さと空腹感に襲われている。そして、この年頃の女の子が憧れるものとして……大きなクリスマスツリー。クリスマスを数日前に迎えているはずの大晦日のこのタイミングで、少女の心の中で憧れていてもおかしくはない。街に出ればどこかでツリーが見れるはずなのだから。
少女の家はマッチを売らなければ生活していけないほどの貧しい家庭も相まって、その憧れの気持ちは大きくなっていたのだろう。
こうなって来ると、マッチが少女に見せているのは、少女が強く思ってる光景であることは間違いない。
「これは使えるかも」
私はポケットに入っているマッチを見つめて、希望をもって呟いた。
オタクの彼の言葉を借りるなら、このマッチはこの世界独特の能力だ。
マッチに秘密があるのか、少女自身にこの力があるか分からないが、それは関係ない。
私は、私の中の仮定を証明させるために、目をつむる。
今井咲として両親に会いたいを強く思う。
そのままマッチを取り出すと、壁に擦り付ける。
≪シュッ≫と音たてたかと思うと、目をつむっていても瞼越しに明るくなったことが分かる。
ゆっくり目を開けた。
私の目の前には、見慣れた私の両親が立っていた。私のことを見て、優しく微笑んでいたのだ。
しばらくするとマッチの火は消えてしまう。
両親も一緒に消えてしまった。
これで、証明は済んだ。
少女が知らない私の両親が出たのだ。やはり、マッチには強く思っている光景を目の前に見せる能力があるみたいだ。
あとは、私の知らない、少女の記憶が見れるかどうかだ。
私はもう一度目を閉じ、今度は中にいるであろう少女の意識に語り掛けるように意識を集中させた。
『あなたの本当に欲しい物ってなに?』
そう心の中で言って、私はもう一度マッチを手に取ると、慣れてしまった動作をして、マッチに火を灯す。
少女に私の想いが伝わったのか分からない。
私は目を開けた。
そこには、少女と少女の両親らしき男女が見えた。
三人ともボロボロの家で裕福ではないけれど、幸せそうに寄り添いあっている。
少女の姿は今とは比べ物にならないほど、とてもきれいだった。
マッチの火が消えた。目の前の光景も儚く消え去ってしまった。
「あなたの想いはよく分かったわ」
私は少女に語り掛けるように小さく体の奥に向かって呟く。
少女に私の声はしっかり届いている。
それが分かって安心した。
私の中で新たな気持ちが芽生えてきた。私は自分が元の世界に戻るために、死というバットエンドを回避しようとしていた。
しかし、今ではこの少女を助けたいという想いが沸々と沸き起こってきている。
少女は、自分にひどい仕打ちをしている両親と、それでもいつかは笑って一緒に暮らしたいと願っているのだ。
そんな儚くも優しい少女の願いを叶えなくてどうする。
少女をここで死なせてはいけない。
『私が絶対にあなたの願いを叶えてあげる。安心して』
私はそう思うと、姿は見えない少女が静かに頷いたように感じた。