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異世界転移?

 事の始まりは昨日の夜にさかのぼる。

 私、今井咲(いまいさき)は、地球の日本という国に生まれた、ごく普通の高校に通う女子高生だ。

 そんな私がなぜ、こんなよく知らない街の、薄汚れた少女になっているのか、見当もつかない。

 昨日はいつも通りの変わらない一日だったはずである。いつも通り学校へ行って、友達と他愛無い会話をして、夕方には家に着いていた。お母さんの作ったご飯を、仕事が終わって帰ってきたお父さんと一緒に、家族三人食べた。

 出された宿題を終わらせると、休憩がてらお風呂に入り、一息ついたのだ。リビングでテレビを見ながら、スマホで友達と連絡を取り合っていた。

 そのうちに、遅い時間になったため、友達とのやり取りを切りのいいところで終わらせ、明日の準備をすませると、そのまま私はベットに潜り込み眠ったのだ。

 そして、目を開けると、今のような状況になっていた。



 ガラスに映った自分に姿を見て、改めて昨日のことを思い出したが、何も変わったところは見つからない。

 何回思い出そうにも、昨日特別なことをした記憶はなかった。


 夢……

 

 最初こそそう思ったが、足から伝わってくる地面の冷たさは本物のそれだ。

 試しに頬をつねってみる。


「痛い……」


 幼い少女の独特なきめ細かく柔らかい肌がよく伸びる。

 痛覚はしっかりとあるようだ。ここで夢という私の考えは通用しなくなってしまった。

 となると……


「異世界転移……?」


 私の頭にある、今の状況に一番合致した言葉がそれだった。

 私自身、小説や漫画は読まない。正直興味もなかった。

 そんな私がこんな単語を知っているのは、学校で偶然隣になった男子生徒の影響だ。彼は、いわゆるオタクという部類の趣味を持った人間だった。

 初めこそ、今まで関わったことのないタイプに、私自身戸惑っていたところもある。しかし、彼は何思ったのか、私に自分の趣味や好きなものの話をし始めたのだ。

 彼の話は専門的な単語ばかり並んでいて、私にはよく理解できなかった。

 そんな私の様子に気づいたように、彼はある日から、あえて専門的なところを、私に分かりやすい単語に置き換えて話すようになった。ぎこちないその様子に私の彼に対しての苦手意識は、日に日に薄れていったのを覚えている。

 そんな彼の一番の楽しみは、無料小説投稿サイトを見ることらしい。

 サイト内で今一番熱いのが、『異世界転生・転移』というジャンルだと、彼は熱く語っていた。

 普通の人が、こことは違う異世界に飛ばされたりして、魔法やその世界独特の力を使って、生き抜いていくというのが大まかなストーリーだという。特に彼のお気に入りは、主人公が元の世界の知識を使って、その世界でユニークな技を編み出し戦っていくものだそうだ。

 いつか自分も異世界に召喚されたいと宣言していたのは私の記憶に新しい。

 その記憶が私に根強く残っていたようで、私の口から自然とその単語が漏れたのだろう。


「とはいってもどうしよう……」


 私は途方に暮れたようにガラスに映る自分の姿見る。

 異世界転移だとしても、どうしていいか分からない。第一、私が一体誰なのかも見当がついていないのだ。

 さらに、自分の姿を細かく見つめる。

 一番の不可解な点はこのボロボロの服と、靴を履いていないことだろうか。

 まだ、少女ともいえる幼い容姿。金色の髪……

 と、そこまで見たところで、記憶の片隅で何かが引っかかっる。

 この少女のことは私はどこかで見たことがある。というか、聞いたことがあるのだ。

 小さいころだったように思う。


 確か……

 

 そうだ。あれは私が小学校低学年だったころまで、よくお母さんが読み聞かせてくれた物語。私の大好きだった童話に出てきた少女にそっくりだったのだ。

 私はそう思い、少女のエプロンのポケットに手を入れる。

 記憶が正しければきっとここに……


 はたして、私の手の中に納まっていたのは、私の予想通り『マッチ』だった。

 日本でもよくある木でできていて、先端が丸く赤色に着色されたもの。そんなマッチがポケットにはいっぱい入っていた。

 私は手に持ったマッチを見つめるとため息が漏れてしまう。

「やっぱりそうだ……」

 私は自分に言い聞かせるように小さな声で呟いた。



 私が転生したのは『マッチ売りの少女』だったのだ。


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