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初まりの勇者と終わりの呪い  作者: 草上アケミ
第一章 聖なる獅子と不滅の鳥
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第七話 真相とあやまり

 そこでふと、リディンは名案を思いついた。

「それじゃ、殴る代わりに茶番の真相をじっくり聞かせてもらおうか」

 リディンがわざと剣呑な顔でギルを睨む。

「げ……」

 ギルは明らかにまずい、という顔をして目を逸らした。

 しかし、リディンの追及は止まらない。

「俺の記憶なら大体戻ってるから、今更しらばっくれても無駄だぞ」

「……」

 心なしか顔色が悪くなったが、それでもギルは押し黙ったままだった。

 リディンは溜め息をつくと、確認がてら自分が知っている事を話しだした。


「ケアリアの町は癒しと(えにし)を司る獅子の神獣、命渡(めいと)が多く暮らす町だった、ていうのは知ってるよな」

 問いかけに、ギルは口を閉ざしたまま頭を縦に振った。

「そして、俺はその町で命渡と半獣の親を持つ濃半獣(クォーターズ)として生まれた。血が濃いせいか能力が覚醒したのが幾分か早かったから、昔は苦労したな――半獣は能力が覚醒すると成長が遅くなるってのは知ってるんだろ」

「……ああ、それでも純血種には寿命で遠く及ばないが」

 ギルがようやく口を開き、リディンの言葉に頷いた。

 神獣の寿命は種族によって大きく異なるが、命渡族はおよそ五百年近く生きる。だが、神獣とヒトの間に生まれた半獣の子は、その半分以下の百年から二百年程度の命しか持たない。

 しかし、それでもヒトの寿命の七十年と比べれば隔絶されて長く、ヒトと半獣の間には大きな差が歴然と横たわっていた。


「普通のヒトは十五で自警団に加わる事を許されるんだが、俺は危険性も考慮されて十九でやっと見習いになれた。ま、俺が生まれた時既に神獣への不信感が根付きつつあったから、防衛の仕事にありつけただけ僥倖なんだろうけどな」

 命渡の特徴である金の虹彩異色症(ヘテロクロミア)は悪魔の朱い双眸までとはいかずとも、十分ヒトとの断絶を表し、神獣に誤った怖れを抱く人々には忌避の対象となる。

 リディンは標準的な半獣(ハーフ)と比べれば確かに潜在的な能力は高いが、所詮は混血――あらゆる観点から見て純血種と比べれば危険性などあってないようなものだが、ヒトにはなかなか理解されない。彼は七年も制御訓練をして、暴走の危険性は万に一つもないと太鼓判を押されてからようやくヒト社会の一員になれた。

「そんな訳で俺は今日まで安定した働き口があった訳だが、お陰で二年前に面倒を押し付けられた」

「二年前……」

 二年前、という言葉にギルが真剣な表情になる。

「この辺りの事情はお前の方がよく知ってると思うから割愛するが、命渡が集団でケアリアを離れることになった。名目上は戦医不足のための徴集という形で、全ての神獣と多くの半獣が町を離れた。本来なら、俺くらい血が濃い奴も疎開対象に入るんだが、神獣がいたという証拠を隠滅して安全に空き家を売却する役目を振られちまったんだよ」

 わざと不服そうな言い方をしたが、リディンはその役目に対して不満を抱いているわけではなかった。

 町の防衛に携わっている数少ない地元の半獣ということもあり、無理やり引き抜くのは多少不自然であった。リディンも、長い時間をかけてようやく馴染み始めた職場を去るのは感じるところがないわけではなく、できれば長く町にいたいという気持ちがあった。

 そこで、執行猶予という形ではあったが、しばらく町に留まれるのはリディンにとってそう悪い話ではなかったので後始末役を承諾し、自警団の仕事の合間に神獣に関する医学書やちゃちい聖遺物をかき集めていた。

「まあ、ケアリアの住人全てが俺たちのことをそっくり忘れちまった後は、逆に過ごしやすくなったから残って良かったと思ってた……テメェに頭の中を消し飛ばされるまではな」

「……うっ」

「大事な役目を忘れた上にテメェに業務を引っ掻き回され、かなり迷惑したんだぜ、ええ?」

「……ぐっ」

 ギルによって当初の予定が狂ってしまった事を改めて認識し、身の上話の途中からリディンは徐々に不機嫌を露わにし始めた。

 せっかく掻き集めた公表されてはいけないものが、記憶を失っている間に再流出してしまう恐れもあったのだ。ギルがやってしまったことは全命渡族から恨まれても仕方の無いことであった。

「ここまで言えば、テメェが何を弁解すればいいのかも分かってるよな?」

 無表情が崩れてしまってから百面相のように表情がころころと変わっているギルが、本日一番焦っている顔になった。

 いつの間にか、ギルは地べたに座り込んでいて、リディンがそれを見下す形になっていた。天煉の戦士を容易く蹴散らした悪魔とは到底思えない姿である。

「…………」

「………………分かった、全て話す」

 沈黙の圧力に堪えかねて、とうとうギルは折れた。


  ◇ ◆ ◇


 ケアリアに向かう道中、ギルは森の中を一人で歩いていた。

 パーシェと一緒では移動が目立つので、ひとまず離れた場所で待機して後から合流する予定であった。

「おい、そこの青い服着た赤の革鎧」

 背後から声をかけられ、ギルは仕方なく振り返る。

 そこには武器を持った二人組の男が立っていた。しかも、両方とも赤髪に赤眼という最悪の組み合わせの色を持っている。

 ギルから見て左に立っている男は赤いローブの上から両手剣を背負っていた。右の男は同じようなローブの腰に金属板を貼り合わせたブーメランを幾つもぶら下げていた。

 ギルは自分の運の悪さに思わず嘆息した。

「その手に持つ黒い竜杖(りゅうじょう)、貴様月喰(げく)の者だな」

 両手剣を背負っている男が言った。

 仮面で朱い瞳を隠しているにも関わらず、男はギルの正体をすぐに見破った。ギルの持つ特殊な槍が手掛かりになってしまったようだ。

「……争炎(そうえん)の自由戦士が何の用だ」

 聞かずとも大体分かるが、そうでないことを願って念の為に聞いておく。

「何、ここであったのも何かの縁。ひとつ手合わせをと思ってな」

 そう言って、両手剣を携えた剣士はにやりと笑った。

 お決まりの展開に、ギルは再び息を吐いた。


 赤い髪に赤い目という特徴を持つ争炎の民は、神獣きっての戦闘狂だ。戦いがあれば介入して焦土と化すまでどんちゃん騒ぎをし、平時には自由戦士を名乗り各地を放浪して出会った戦士に片っ端から決闘を申し込む。

 決闘に受けて立てば何処であろうとお構いなしに焼き払い、断れば相手ごと周囲を焼き尽くす――とんだ理不尽の塊である。

 悪魔がヒトにとっての災害なら、争炎は神獣にとっての災害そのもの。唯一の救いは、彼らが戦いの相手として認めるのは神獣もしくは強い半獣で、ヒトは全て取るに足らないものだと思っていることぐらいだ。そうでなければ、主要な都市の大半が滅んでいただろう。


「……」

 ギルはこの場から逃げ出したいと切実に思っていたが、背中を向けた途端にブーメランや術が飛んでくるのは目に見えていた。例え追撃をかわしたとしても、森に大々的に火を点けて追い詰めにかかってくるだろう。

 元より、見つかってしまった時点で立ち向かうしか道は無い。

 諦めて仮面を外し、ギルは槍を構えた。

 ギルが素顔を晒すと、二人組は少し驚いた。

「若そうだとは思っていたが、まさかここまで若いとはな」

「成る程、それで軟弱な竜杖に鎧というわけか――しかし、手は抜かんぞ」

 二人組も各々の武器を油断無く構えた。

 剣士は両手剣を中段に構え、能力を流し込み始める。

 両手剣は赤みがかった金属で出来ていた。剣身の腹には六つの穴が空いており、能力が充填されると一つ一つの穴の中に真っ赤な炎が宿っていく。能力が完全に充填されるまで二呼吸程の時間がかかった。

 その様子を見て、ギルは内心落胆した。術が(つたな)い剣士でも扱えるように設計されている竜牙(りゅうが)とはいえ、能力の充填が遅過ぎる。

 竜牙と呼ばれる種類の両手剣は、竜種の剣士に最も好まれる武装である。素の状態でヒト程度を真っ二つにできる刃に能力の媒体としての特性を追加し、能力を結晶化せずとも武器に乗せる事ができる。そして剣身に付加された能力は斬撃と共に放出され、相手を吹き飛ばす。手軽に高火力な武器のため、半人前剣士から剣豪まで幅広く使い手がいるが、どうやらこの男は前者のようだった。


 初手はギルに譲るつもりのようで、二人組は一向に仕掛けて来ない。

 ギルの格好が術士そっくりだったので、まず術が飛んでくるものと思い込んでいるのもあったのだろう。

 その期待を裏切って、ギルは剣士の方に突進する。

「!」

 上段から振り下ろされた槍と両手剣がぶつかる。互いの得物がかち合った瞬間、赤い火花が剣士の視界を埋め尽くした。両手剣に宿っていた炎が三つ消し飛んだのだ。続いてギルが槍を横に鋭く払って両手剣を弾くと、両手剣の炎が更に二つ掻き消えた。

 剣士に追撃しようとするギルの側頭部を狙い、炎を吹き上げながらブーメランが飛来する。ブーメラン一面に張り付いた赤い結晶が本来の姿である炎に戻りながら標的に向かって飛んできているのだ。

 ギルは後方へと跳び、ブーメランの軌道から逃れる。しかし、外れたブーメランは主の元へと戻る事無く、新たな弧を描いて再びギルに襲いかかった。

 投擲者が結晶化した能力の展開を遠隔で操作し、ブーメランの軌道を変える。結晶術士としては中級どころの技術だ。


 だが、ギルにはその程度の刃は届かない。

 再び飛んできた刃を、ギルは槍の石突きで軽くいなす。たったそれだけでブーメランの炎は消え、結晶は粉々に砕け散って消滅した。

 燃料を失ったブーメランはあっけなく墜落し、大地に突き刺さる。

 間髪入れず、ギルは前へと大きく踏み込んだ。僅か二歩で剣士に肉薄し、下がって剣に能力を充填しようとしたところに容赦なく突きを繰り出す。

 両手剣の腹に槍を突き立てて抑え込み、たった一つ残っていた炎を消す。


「悪い」


 ギルの突然の謝罪の直後、両手剣の表面に幾つもの筋が走った。

「まさか……そんな!」

 目を見開く剣士の手の中で、両手剣は中程から砕け散った。

 生身の神獣の何倍もの能力耐性と強度を持つ武器が、能力付加すらされていない術士の護身用具に数回打ち込まれただけで限界を迎えてしまった。その打ち込み自体も、剣士が少し押し負ける程度で膂力(りょりょく)に大きな差は無い。

 当然、ギルの持つ破壊力にはからくりがあるのだが、驚きと恐怖が先行しただ呆然としている剣士にそれを見抜くことはできなかった。


「これならっ!」

 結晶術士がありったけの能力を込めて一度に五つのブーメランを放った。ブーメランはそれぞれ違う方向からギルに攻撃を仕掛ける。

 多方向からの同時攻撃――避ける手段など存在せず、全て防ぐことも無理である。結界を張ろうにも、剣士との間合いが近過ぎて不可能。ギルに直撃すれば仲間も被弾してしまうが、緩衝圏(アーミナ)は同種族の攻撃に強いという性質上大事には至らないという結論がでたのだろう。

 ギルは攻撃を避けられない事を悟ると、槍の穂先を天へと向けて石突きで地面を叩く。

 槍から空へと破壊の朱い稲妻が走り抜け、放電の余波によってブーメランと剣士は後方へ弾き飛ばされた。

 ブーメランは地面と接触すると砕け散り、地に伏した剣士はぴくりとも動かない。

「くそっ、クソッ!」

 結晶術士は往生際悪く、残りの力を振り絞ってギルに連続で火球を投げつける。

 だが、ギルは火球を尽く刺突で掻き消し、結晶術士に向かって突進する。

「グルアァッ!」

 これで最後と言わんばかりに結晶術士が吠えた。咆哮と共に口から吐き出された炎がのたうちながら周囲へと広がる。

 炎に飲み込まれる寸前ギルは左へ跳躍、空中で槍を放り投げ四つん這いで着地した。肉食獣のように結晶術士に跳び掛り、拳で顎を打ち抜く。何の強化も能力も乗っていなかったが、鍛えられた拳にはそれだけで相手を気絶させる威力が秘められていた。

 結晶術士はがちんと上あごに下あごをぶつけ、吐き出しきれなかった炎を強制的に呑まされて白目を剥いてひっくり返ってしまった。

 とうとう、二人の自由戦士はギルに一撃も与えられないまま敗れた。


「はぁ……」

 完全にのびてしまった二人の戦士を見下ろし、ギルは脱力して息を吐いた。手を抜き過ぎるというのも、なかなか疲れるのである。子犬が足下にじゃれついて鬱陶しくとも、思い切り蹴飛ばせば死んでしまうかもしれない。何事も加減が重要だ。

 槍の落ちている場所までだらだらと歩き、拾ってからその場でしゃがむ。

 こんなに弱いなら一撃で完膚なきまでに叩きのめせば良かったと後悔し、小休憩をとるギルは、本当に気疲れしていた。周囲への警戒を緩める程に。

「おい大丈」

 急に掛けられた声に、ギルは碌に相手を確認もせず反射的に術を発動させる。

 指の間に現れた朱い刃物を声のした方向へと投擲。ギルの視界の外にいる筈なのに、結晶の刃物は対象の眉間へと正確に突き刺さった。

 ギルに駆け寄ってこようとした兵士は言葉を最後まで紡ぐ事無く倒れてしまった。

「げ」

 状況を理解し、思わず声を漏らしたギルの顔は真っ青になっていた。


  ◇ ◆ ◇


「――そして、俺がついうっかり放ってしまった術によって、(ぬし)は俺と出会った事を忘れ、関連する記憶も思い出しにくくなっていたというわけだ」

 そこから先の話は、概ねリディンの予想通りだった。

 本来ならばリディンから情報収集し、その報酬として抹消し辛い聖遺物を引き受けることがギルのケアリア訪問の目的だった。

 だが、肝心のリディンの記憶がギルの失態によって吹っ飛んでしまい、ギルは動くに動けない状態に陥ってしまったのだ。

 完全にリディンが記憶を失っていない事に賭けて、ギルはリディンに一か八か接触を試みなんとか記憶を引き出そうとしたが、その手の術には元から疎いうえに話術が壊滅的なギルの努力は焼け石に水。結局、大規模な事件が起こるまでに思い出させるきっかけ作りが出来なかった。

 ギルはそれらの事実を淡々と語った。言葉に感情が一切籠っていないが、リディンと絶対に目を合わせないようにしているのは罪悪感の表れかもしれない。

「何だか、お前をもう一発殴っても罰が当たらないような気がしてきたぞ」

 自分の記憶障害の原因が予想以上にくだらなくて、リディンは握り拳を作った。しかし、さっきの宣言を撤回するわけにもいかず、無理やり拳をこじ開ける。


「――で、お前は一体どういう事情で天煉(てんれん)の連中に喧嘩を売りに行くんだ?」

「喧嘩を売る気は無い」

 至極真面目な顔で、ギルは自分が先程三頭の天煉族を蹴散らしたことを否定した。

 あの程度は武力行使(けんか)に入らないのか、それとも額面通りに受け取っているのか、リディンには判断がつきかねた。

「向こうは存外やる気だぞ、戦闘に向いてる訳でもないってのに」


「天煉について詳しいのか?」

ケアリア(うち)は天煉の宗家から一番近い町だからな。そりゃ、嫌でも情報の出入りはあったさ」

 二年前までは、な――リディンがぼそりと付け足した言葉には意味深な響きがあったが、今度はギルの表情は動かなかった。

「正直なところ、あいつらは足が速いだけの使いっ走りだと思っていたのだが」

 ギルはさらりと酷い事を言った。


 天煉は天を舞う鳥のような姿をしているが、並みの四つ足の連中よりも速く走ることができる。もちろん空も飛べ、その速度もなかなかのものを誇るために、空陸輸送を兼ね備えた運び屋として活躍するものもいた。

 だが、本質から言えば彼らは生粋の鍛冶職人または細工師であり、自らが作り出した熱を用いて道具を製作することを生業としている。


「あながち間違いじゃない。だが、仮にも鍛冶と(かまど)を司るとされる者たちだ。扱える熱は、下級の争炎よりも遥かに大きいし、使い方も捻くれてるぞ」

 リディンは先程ギルを殴った手を持ち上げてみせた。

「知っての通り、俺たち命渡も荒事に向いていないが、さっきみたいな技だって使えるし、いざとなれば規模は小さいが結界も張れる。要は使う個人の力量次第だ」


 リディンが使った技の手法は、殴る瞬間に能力で拳を覆い、相手に直接能力を叩き込むというものである。少々制御が難しいが、相手が人間の姿をしているならば純血種の緩衝圏(アーミナ)ですら十中八九ぶち抜くことができ、耐性に関わらず攻撃することが可能だ。

 この技の威力は付加する能力の性質に依存するため、支援系の能力を持つリディンよりも生粋の戦闘種であるギルの方に運用が向いている。しかし、こめる能力の性質を事前に術でちょっといじれば、向いていないリディンでも安定した高火力をたたき出せるのだ。

 同じように、天煉の戦士も自らの能力を戦闘に転用する術を持っている筈だとリディンは推測した。しかも、熱というものは凶器になりやすい性質を併せ持っている。


 ギルが、病院で悪夢を見ている連中と同じことにならないという保証はない。

「向いていないことをやっているのは俺も同じだ。おあいこだ」

「どこが五分だこの馬鹿」

 あまりの頭の悪い発言に、リディンは思わずギルの頭をはたいた。


「兎にも角にも、合図を送ったからには正面から行くしかないな」

 リディンに殴られた頭を軽くさすると、ギルは言った。

「合図?」

 その言葉に、戦闘の後ギルが空に雷を打ち上げていたことをリディンは思い出した。

「まさか……まさかとは思うが、もしかしてさっき空に打ち上げた奴って天煉に今から行くぞ、って伝える為のものだったのか?」

「そうだが」

 何を今更とギルはきょとんとして言った。

「そんなことの為に一々大技を使ってんじゃねぇ!」

 リディンは盛大にギルを怒鳴りつけた。あまりの大声に、ギルは反射的に耳を手で塞いだ。

 ギルの話を聞いただけでも、あの雷は余波だけで周囲の術や物体を吹き飛ばす力を秘めている。とすると、直撃したときの威力はどれほどのものかリディンには見当もつかなかった。そんな物騒なものを狼煙代わりに使うギルの神経も信じられなかった。

「確かに消耗はするが、下手に術を使うよりも簡単だ」

 ギルはリディンが何に怒っているのか分かっていないようだった。

「分かるくらいに消耗するのかよ。尚更使うな」

「俺の勝手だろう。いちいち煩いぞ」

 一方的なリディンの言葉に、ギルは若干拗ねてきた。

「いんや、全然煩くねぇ! こっちは心配して言ってるんだよ、この馬鹿」

 優しさの押し売り臭いが、リディンはきっぱりと言い切った。

 ギルがあからさまにげんなりとした。

「……」

「無言で逃げんじゃねぇよスカ頭!」

 リディンの説教の鬱陶しさに、とうとうギルは勝手に歩き出した。それを追いかけながら、リディンの口撃は続いた。

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