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勇者の伝承

 最初の世界には、人も獣もいなかった。

 世界を正す者も動かすものもいなかったが故に、程なくして最初の世界は乱れ、壊れてしまった。


 二つ目の世界には、人と獣がいた。

 人は理性を以て世界を調整し、獣は本能を以て世界を動かした。人と獣は対立し、人は常に獣を迫害していた。

 人は持てる術を全て使って世界を維持しようとしたが、次第に狂っていく世界を律することは叶わず、千年と保たずに世界は崩れ去った。


 そして、新たに創造された三つ目の世界には、人と獣と精霊が共にあった。

 精霊は形を持たなかったが、時が経つにつれ形を成し、人の似姿と獣の似姿を手に入れた。

 人は精霊の持つ力に惹かれ、精霊もまた人の似姿を以て人に協力を申し出た。人と精霊の共生は世界に調和をもたらし、世界は四千年の長きに渡り平穏そのものであった。


 しかし、朱色の眼を持つ邪悪な精霊により調和は乱され、人と精霊の絆は儚くも消えてしまった。

 人の心から精霊への親愛の情は消え、獣の似姿を合わせ持つ存在である精霊を忌み嫌うようになった。

 迫害の中、やがて精霊は人の前から姿を消し、それまで精霊と人の協力によって維持されてきた文明は衰退していった。同時に、精霊の加護を失ってしまった人を獣が襲うようになった。

 二つ目の世界で迫害された恨みに邪悪な精霊がつけ込み、獣に力を与えて人にけしかけたのだ。

 精霊の助けを得ることなく獣に対抗することは不可能であり、精霊と人とを繋いだ文明が滅んでしまった今となっては、再び精霊の力を借りることも夢物語であった。

 いつしか、人は精霊の存在すら忘れ、ただ獣に怯えるだけの存在に成り下がってしまった。


 だが、天は人に一つの希望を授けた。

 人の身でありながら精霊の力を扱い、獣を退ける者が現れたのだ。

 人々は彼の者を勇者と讃え、敬った。

 勇者は邪悪な精霊とその僕たる獣を相手取り、たった一人で戦い続けた。どんな獣の牙も勇者に届くことはなく、どんな獣の皮も勇者の槍の前に容易く切り裂かれた。

 孤独な戦いの果てに勇者は邪悪な精霊を打ち破り、神の剣で精霊を奈落の底に封印した。

 精霊の封印に力を使い果たした勇者は再び立ち上がることはなく、封印された精霊の前で静かに息を引き取った。


 勇者の力を持ってしても全ての獣と精霊を討つことはできなかった。

 しかし、邪悪な精霊が封印されたことによって獣の力は弱まり、人は獣と対抗できるようになった。



 ――――これが、欺瞞に満ちたくだらない勇者の伝承。

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