戦いの後始末
ベラが最後にうけたあの一撃は、無相混元気の中でも一番威力が高い技、混元一気である。
攻撃範囲がかなり狭く、尚且つ混元一気の気が集っている腕もろくに動けないため、命中率が低い。
その割に殺傷力が半端ないので、格上の相手には逆転の一撃となりうる。
当てるコツは体の筋力リミッターを外して、音速で自分の体ごとぶつけにいくこと。
当たってさえすればどうってことはない!と赤い三倍速の誰かさんが言っていたぞ。
そういう俺も無傷とはいかない。特に筋肉は悲鳴をあげている。
まぁ、このオークの体で無理やり全開とイったんだ。筋肉は大分傷ついているだろうし、もしかしたら他の部位も異常が来ているかもしれない
さすがに混元一気を真に受けては無事ではすまないから、俺の勝ちだろうが、それでも対価が高い。
この様子だと明日の行動は無理そうだ。静養しておかねば。
そういえば、ベラはちっとも動かないが……
「あ!姉さん!」
「馬鹿な!姉さんがただのオークなどに……」
「俺の勝ちでいいか?」
「くっ!貴様!一体どんな手を使った!」
「やめんか!あいつは勝者だぞ!」
なんか混乱しとるな……こっちは勝負の結果とベラの容態が気になるんだが
「魔王さま。お疲れ様です。なんか浮かないお顔ですね」
「む?サリアか。いや、生死が気になってな。それにこれは俺の勝ちでいいのか?」
「魔王さまの勝ちに決まっていますよ。相手の金戦神虎は気絶しましたから。そして彼女の生死ならば、鑑定石で調べれば……」
サリアはさっと鑑定石を取り出すと、ベラに睨みつけて、頷いた。
「一応、HPはまだ数百くらいありますが。バッドステータスに流血(大)と気絶(大)とあります。このまま流血させていれば数分で死ぬんじゃないかと」
これで生きているのか。毛皮で衝撃を吸収していたとはいえ、全身に混元一気を受けてたやつは今まで全員粉々だったぞ。
「生きてもらった方がいいに決まっている。薬などで助けられないか?」
「薬は人間用ですから、回復量が精々数百です。ヒールなら相手の最大HP依存ですのでそっちがいいかと。ちなみに私は攻撃魔法専門で、ヒールも少し使えますが、魔王さまが使ったさっきのハイヒールみたいな術が一番効果あるのでは?」
「ああ。お前がかけてやってくれ。俺のアレは相手の体の構造を理解しきってないと無理だからな、さすがに金戦神虎相手にはまだ使えん。」
「かしこまりました。」
サリアがそう言ってベラの隣に行き、魔法を詠唱し始めたが、数体の銀戦虎が「何をする気だ!」と騒いで彼女の襲いかかる
まだ何体を投げ飛ばして慰めてやってたら、サリアが汗を拭きながら歩いてきた。
流血の部分だけどうにかしてたらしく、これ以上回復させたら逆上される恐れがあるとか言ってそのままほっといたという
俺にコテンパンやらされたからちょっと霞んで見えるが、やはり天才なだけかなり優秀だ。
ご褒美に頭軽く撫でてやると気持ちよさそうに目を瞑ってだらしなく笑った。これでいいのか人間の天才。
俺もこの間に体中の内力を調整して、筋肉損傷の修復を加速させる。
そして小一時間。俺の体調が万全ではないとしても、かなり回復してきた。
銀戦虎達は主のベラが起きないから、ハラハラしながら周りをかごって見守っていた。
いつの間に数は前の10匹くらいから、数十の大団体になっている。これは主がやられたと聞いて全員集まったんだろうな……
ベラがまだ気絶している。そのため銀戦虎達はまだ動く様子はない。
でもはっきり言ってもしそれだけの銀戦虎が一斉にかかってきたら、俺らは詰む。
俺とサリアだけならば、彼女を抱えてなんとか逃げられたかもしれないが、オークはまず全滅するだろう。
戦うのは論外だ、いくら俺でも、この状態でそれだけの銀戦虎を相手に戦えるわけがない。
死を覚悟してやり合ったら半数以上は殺れるかもしれないが、端から敗北しかない戦いをするのは阿呆のすることだ。
結局の所、俺らの運命はベラが起きた後の行動にかかっている。
そもそも掛け声が戦虎達の群れを引きつけた時点でこうなるって決まっている。
それだけ、俺たちは桁違いの戦力に目を付けられたのだ。
無言が続く。暁くらいになって、遂にベラの目は覚めた。
ベラはまだダメージが抜けきっていないからか、動こうとするたびに小さな悲鳴が聞こえる。
無茶なことを……体中の骨が砕けているのに。
さすがに見るに見かねて俺が話かけた
「無茶するな。大部分の骨がさっきの一撃で砕かれている。治るまで大人しく静養していることだ。」
「……そうか。我は、負けたのだな。貴様に……」
「お前も強かった。この森のヌシと言われるだけはある。」
「……我の負けだ。ルールに従おう。貴様に我の全てを捧げよう。殺すなり、使役するなり好きにするがいい。」
「そんな!姉さん!俺らはまだ負けてないっすよ!あいつらオークなぞに支配されるなんで……」
「そうですよ!このまま突撃してこいつら挽肉にしてやりましょうよ!」
銀戦虎達……やはり勝負に勝ったとはいえ、まだ終わっていないのか。
そもそも決闘のルールなど、ただ口だけの約束にすぎないし。ベラが約束通りに降伏しても、部下を強制することができない。
でもベラが俺の軍門に下ったのなら、残りは有象無象に過ぎない。何体をシメてれば残りは大人しく……
「いい加減にせよ!」
「「「「「「「!!」」」」」」」
「?」
物騒なことを考えて内力を回してたら、急にベラが大声で怒鳴りだした。
「かの者は決闘で我を破った。我は完敗と言ってもいいほどに完膚なきまでに叩きのめされた。誇り高き戦虎の一族が、無様な面を晒すでないわ!」
「し、しかしですね…」
「くどいわ!従わぬやつはすぐに出て行くがよい!けほ、けほ!」
そう言ってベラは急にまだ吐血しだした……だから無茶するなって
そんなベラを見て、残りの銀戦虎達はまだ慌て出して、その中の一匹が俺に縋ってそう言った
「兄貴!もう兄貴って呼びますわ!姉さんを助けてください!!」
「そんなこと言われても。俺は治癒魔法を使えんのだが……」
「そんな!さっきはハイヒールみたいの使ったじゃねぇっすか!」
「すまんな。アレは魔法じゃないんだ。あいつには使えん。」
「そんなぁ~」
「えい!喚くな。主よ、自分にヒールを掛けてもよいだろうか?」
「?なぜ俺に聞く。好きにすればいいだろうが。」
「いいえ。主の部下になったとは言え、さっきまでは敵同士であったのだ。勝手にヒールをかけては主に敵対行動と判断されても仕方がない」
……まだ律儀な……
そういえば戦いの途中も自分の怪我を治そうとして、急に怒り出したな。
「別にいい。お前が謀反を企てるようなやつでもない。さっさとヒールを自分にかけろ。」
「はっ」
「残りの銀戦虎共よ。別に強制するつもりはない。ベラの群れから抜けたいやつは抜けろ。」
「……しかし、姉さんが」
「でもオークが主なんて、うん……」
忠誠心が高い数体と、十数体の幼年個体以外、大部分の銀戦虎が悩み始めたようだ。
ま、是非もなし。自分より弱いやつに従う気はないだろうが
「時に主よ。一つよろしいか?」
「なんだ?」
「さっきあそこの人間の小娘が、主のことを魔王さまと呼んだが、それは……」
「そういえば言い忘れてたわ。」
「まさか気づいてなかったのですか?いくらコートを着て隠しているとはいえ、赤い皮膚は丸出しなのでは。」
「赤い皮膚……主よ、やはりあなたは……」
「ああ。俺は魔王種だ。お前らの目では赤色を認識できないらしいから、見えないだろうが、皮膚の色は真っ赤だ。」
「「「「ナンダト!?(( -©Д-©!!!」」」」
銀戦虎共。マジうるさい。
「なるほど。そういう原因なのですね。さすが魔王さま、博学でいらしゃいますね」
お前が俺に対する評価も大概だよ……




