表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/207

74

 夢を見ている時に稀に感じる、墜ちるような感覚。

 あれによく似ていた。

 ただ1つ違うのは、墜ちる感覚が続いていること。


 どこまでも、いつまでも。


 あの不快な感覚が続いていた。

 僕は真っ暗闇をひたすら墜ちていた。



 目を開く。

 いつの間にか墜ちきってしまったらしい。

 薄暗い空の下、僕は列に並んで立っていた。

 前に並ぶのは背の高い青年。

 後ろに並ぶのは腰の曲がった老婦人。

 列を出て見回すと、蛇行したその列は何百人、下手をすると何千人という規模の行列であることが理解できた。


「はいはい列を出ちゃ駄目だヨ」


 軽い調子の声に、振り返る。

 そこに居たのは黒いローブを全身にまとった骸骨。

 そのローブはまるで黒いモヤのように揺蕩(たゆた)っていた。

 一瞬、ジャックかと期待したが、彼ではない。


「あの、ここはどこでしょうか」

「あー、自覚が無いタイプだネ」


 骸骨は少し困ったように、こめかみを掻いた。


「周りの人間をよく観察してごらン」


 辺りをもう一度見回す。

 そしてすぐに違和感に気付く。

 誰も喋らない。

 これだけの人数がいて、咳払い1つ聞こえない。

 人々は皆、真っ白で虚ろな顔をしていた。


「……死人?」


 骸骨はパチンと指を鳴らす。


「惜しいネ。列の先頭は見えるかナ?」


 蛇行した長い長い行列の先。

 目を凝らすとじんわりと見えてきた。

 そこには波静かな湖らしきものがあった。

 この薄暗い中にあって、どこから照らしているかわからない光が反射している。

 まるで黒い油の海のように見えた。


「あれは、湖?それとも海かな」

「どちらでもないヨ、あれは死の淵」


 次の言葉を待つが、骸骨は視線を死の淵から動かさない。


「見てればわかるヨ」


 そう言われて、僕も視線を戻す。

 行列の先頭が、無表情のまま水の中へざぶざぶと入って行く。次第に体が見えなくなっていき、頭のてっぺんがトプンと水に消える。

 するとそれを合図にするように、次の人がまた水に入って行く。


「巷では『死の淵を彷徨(さまよ)う』なんて表現をするらしいけド、それは間違いだネ。正しくは『死の淵で列に並ぶ』ダ」

「死の淵に沈むとどうなるの?」

「無論、死ぬネ」

「じゃあ、僕もじきに死ぬんだね」

「順番が来たらネ……ってか落ち着いてるネ、君。僕はつまんないヨ」

「そう?骸骨と喋ると落ち着くのかも」

「ふーん、変わってるネ」


 行列はゆっくりと、だが確実に進む。


「順番が来たら、って事は順番が来ない人もいるの?」

「いるネ」

「どんな人?」


 骸骨はきょろきょろと見回すと、行列の後ろの方を指さした。

 そこには無表情な人が1人、ふわふわと脱力した状態で浮いていた。少しずつだが、上へ昇っているようだ。


「死にかけたけど助かる人間ハ、ああやって上へ行くんダ。たまに上がりきれなくて、また墜ちてくる人間もいるけどネ」


 そう話す間にも、じわりじわりと昇って行く。


「ああ、あの人間は助かるネ。運が良い事ダ。いや、行いの良い事だ、カ」


 僕は薄暗い空を見上げた。

 雲も太陽も見えないが、妙に見通しが悪い。


「僕は……助かるかな」

「さあネ。でも、あまり期待しちゃいけなイ。ここまで来たら大抵は死ぬかラ」

「そう、か」

「まあ、何故死にかかってるかにもよるしネ。助かりようの無いケースじゃ期待するだけ無駄だシ」


 僕は目の奥にズキンと痛みを感じて、思わず目を閉じる。

 じっと我慢していると痛みが少しだけ和らぎ、ゆっくり目を開く。

 すると、骸骨が鼻が触れるほど近くで僕の顔を覗きこんでいた。


「君は何故、死にかけてるノ?」


 更に強い痛みが走る。

 痛みに耐えかねて(うずくま)る。

 思い出せない。


「わからないカ。まあいいサ、時間はまだたっぷりあル。ゆっくり思い出せばいイ」


 わからない。

 僕はどうしたんだ?

 冒険で下手を打ったのか?

 それとも誰かに襲われた?

 ジャックは無事か?

 ルーシーは?

 ……わからない。


「思い出せない時ハ、その少し前から思い出すといいヨ」

「……少し前?」


 痛みを堪え、薄目で骸骨を見る。


「うン、少し前。君が思い出せないのハ、死にかかった瞬間を思い出そうとしているからサ」


 骸骨は大袈裟に胸を押さえ、苦しむ真似をする。


「嫌な事、苦しい事って人間は思い出したくないものサ。でモ、記憶ってのは鎖で繋がってル。覚えている部分から思い出していけバ、大抵は思い出せるものなのサ」

「覚えている部分……」


 目の奥の痛みが弱まっていく。

 死にかけた瞬間を避けて、糸を手繰り寄せるように慎重に記憶を辿る。


「……思い出した。ミリィに会った」

「それは誰だイ?」

「前にパーティを組んでた女の子」

「ふんふン。それデ?」

「それで……そうだ。他のメンバーにも会ったんだ。エリーゼとアルベルト」

「その時、何があったんだイ?」


 僕はその日の記憶に思いを馳せた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『骨姫ロザリー 1 死者の力を引き継ぐ最強少女、正体を隠して魔導学園に入学する』        5月25日発売!                 
↓↓販売ページへ飛びます↓↓ 表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ