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「無事、期間内にイロハのレベル上がって良かったよ」


 翌日、僕達は帰りの馬車に揺られていた。

 ノクト村に着いたその日にイロハのレベルが上がったので、帰りの日程に余裕が出来た。その為、ゆっくりと通常の乗り合い馬車で帰っている。

 ちなみにゾラさんはノクト村に残る事となった。メタリックモンスターの研究をするのだそうだ。

 昨日はどうしても焼きマタンゴを食べてみたいと、僕達が止めるのも聞かずに口にしていた。案の定、全身を震わせながら倒れたのだが、僕がすぐ『ディスパラライズ』して事なきを得た。学者というのは冒険者の中でも最も無謀な人間が就く職業かもしれない。


「これもセンパイとジャック殿のお陰でゴザル!」

「のえるサンモ上ガリマシタシ、良イ結果デシタネ」


 そう、僕もレベルが上がっていた。

 多量のマタンゴを倒した事に加え、メタリックマタンゴの分も経験値が入っていた。逃げ道を塞いでただけなのだが、ポーリさんの言うところの貢献度として判定されたのだろう。


「いやー、今年は早くもノルマ達成だ」

「ン、何ノのるまデス?」

「今年から、年に1つレベル上げるのをノルマにしたんだ」


 ジャックは大袈裟な身振りをしてから、手のひらを目に被せる。


「低イ……志ガ低スギル」

「失敬な。僕やイロハは1つ上げるのも大変なんだよ?」

「そうでゴザル!そうでゴザル!」

「シカシソレデハれべる30ニナル頃ニハ、イイおっさんデスヨ?」

「むう……」

「いろはサンハ、イイおばさんデスヨ?」

「わざわざ言い直さなくてもいいでゴザル……」

「でもレベル30か……夢だなあ」

「夢でゴザルなあ」


 僕とイロハはニヤニヤしながら宙空を見つめる。

 それを見るジャックはがっくりと肩を落として呟いた。


「ダメダコリャ……」



 乗り合い馬車を乗り継いでようやくレイロアに着いたのは、ノクト村を出て3日後の昼過ぎだった。

 報酬はギルドで受け取るのだが、ひとまずドウセツの家へと報告に向う事にした。


「ドウセツ様、驚くでゴザろうなあ」


 軽くスキップを踏みながら、イロハは嬉しそうに話す。


「れべる8デスカラネエ」

「倍でゴザルよ?倍~♪」


 僕とジャックの方を見ながら、後ろ向きにスキップを踏むイロハ。すると角から出てきた人物に、その勢いのままぶつかってしまった。

 尻餅をついたイロハは、腰をさすりながら言う。


「いたたた……どこを見てるでゴザル!」

「向コウノ台詞デショウネエ」


 僕はジャックのツッコミに頷きながら、ぶつかった相手を見る。

 東方系の中年の男性。

 片目に眼帯を付け、口髭を蓄えている。

 イロハはその人物を見上げ、声を震わせた。


「ち、父上」



 ◇



 ドウセツの家の客間。

 草を規則正しく編み込んで作った敷物が床一面に敷き詰められている。ドウセツ曰くタタミという物らしい。

 そのタタミの上に正座したイロハと、胡座をかいたイロハの父が対面している。僕とジャック、ドウセツは部屋の隅に座っていた。


「何だか怖そうな人だね」


 ドウセツに小声で囁くと、同じく小さな囁きが返ってくる。


「ダンゾウ殿は一族を束ねる頭領でござるからな。凄みを利かせる必要があるのでござる。実際は優しいお方でござるよ」

「優しそうには見えないなあ」

「むしろ、怖そうに見せるのに苦労しておるようでござる。あの眼帯も伊達でござるし」

「そうなの?」


 伊達眼帯と知ると、少しダンゾウさんがかわいく見えてきた。


「イロハよ」


 ダンゾウさんが低く威厳のある声で娘の名を呼ぶ。


「はいっ!」


 元気よく返事をするイロハ。


「お前がこの地へ来て1年。もう十分であろう?家へ帰るぞ」

「お待ち下さい父上!」


 イロハは膝をついたままダンゾウさんに近寄っていく。


「拙者は父上の言いつけ通り、レベル5を越えたでゴザル!」

「なにっ!」

「これを!」


 ダンゾウさんの目の前まで来たイロハは、首にかけていた冒険者カードを誇らしげに見せる。


「レベル8だと!?むむぅ……」

「これで拙者は冒険者を続けてもいいでゴザルな!」


 得意満面のイロハに対し、ダンゾウさんは苦い表情で冒険者カードを見つめている。


「っ、いいや!ダメだ!帰るぞイロハ!」

「ええっ!?」


 ダンゾウさんは、目を白黒させるイロハの首根っこを掴んでズルズルと引きずっていく。


「オ待チ下サイ!ソレハオカシイ!」


 ジャックがダンゾウさんの脚にしがみつく、が。


「ええい、邪魔をするな骨っころ!」

「ウヒィ」


 ダンゾウさんに蹴飛ばされ、僕の元に転がってきた。


「ダンゾウ殿」


 今度はドウセツが立ち塞がった。


「拙者はこの1年、懸命に努力してきたイロハを見てきたでござる。それをダメだの一言で否定されては拙者とて納得しかねる」

「ドウセツ様ぁ」


 すがるような目でドウセツを見上げるイロハ。

 対してダンゾウさんは、目を閉じて眉間に深い皺を作っている。


「理はお主の言に在るのだろう。だが、親として、忍びの先達として、はいそうですかとは言えんのだ」


 眉間に皺を残したまま、薄く目を開けたダンゾウさんが続ける。


「1年見てきたならば思い知っておろう?忍者の成長の遅さを。儂が冒険者時代に味わったような辛い思いをさせたくないのだ」

「父上も冒険者だったのでゴザルか!?」


 初耳だったらしいイロハが驚きの表情を浮かべる。


「今のお前と同じ歳の頃か……役立たずだ、足手まといだと罵られ、あげくにダンジョンに置き去りよ」


 自嘲的な笑みで話すダンゾウさん。

 僕はその話を胸を締め付けられる思いで聞いていた。ダンジョンに捨てられなかっただけ、僕の方がだいぶマシかもしれない。


「それから儂は人を信じられなくなった。まず疑ってかかるようになった。まともになったのはお前の母と一緒になってからよ」

「……」


 ダンゾウさんはイロハの両肩を握った。


「儂はお前に辛い思いをさせたくない。人を嫌いになって欲しくないのだ!」


 イロハはぷるぷると体を震わせながら呟いた。


「……諦めないでゴザル」

「何だと?」

「拙者は、イロハは、諦めないでゴザル!……そりゃあ嫌な思いも沢山したでゴザル」


 イロハは僕やジャック、ドウセツを見渡した。


「それでも同じ境遇のセンパイや、その付き人のジャックさん、そして見守ってくれたドウセツ様のお陰でこうして胸を張って父上に会えたのでゴザル!」

「イロハ……」

「誰ガ付キ人デスカ」

「ジャック、しっ」

「イロハは冒険者を続ける事を、そして人を信じる事を諦めないでゴザル!そしていつか、どこまでも信じられる仲間を見つけて父上に紹介するでゴザル!」


 娘の決意を驚きの表情で聞くダンゾウさん。


「……やはりアサヒの子だな」

「母上が何でゴザル?」

「昔、お前の母も儂に言ったのだ。人を信じる事を諦めるな、とな」

「母上が……」

「当時の儂は目が曇っておった。そして、またしても曇っていたのかもしれん」


 そう言うと僕やドウセツの方に向き直った。


「未熟な娘だが、どうか宜しく頼む」


 そして怖そうな顔をタタミにすり付けるように、深々と頭を下げた。



 ダンゾウさんは明日、東方へと帰るとのことだった。

 冒険者を続ける許しを得て、父上父上とまとわりつくイロハに困り顔を浮かべながら、宿へと歩いていった。


「あっ、そうだドウセツ」

「ん?なんでござろう」

「はい、これ」


 僕はカバンから紙切れを取りだし、ドウセツに渡した。


「む、請求書?ユニコスター代として……ゆにこすたあ!?」


 読んでいる隙に、僕とジャックはコソコソとドウセツの家を出て行く。


「ノエルっ、どういうことでござる!?……逃げたなっ!!」

「走るぞジャック」

「了解デス」


 やがて家の門から出て、辺りを見回すドウセツが小さく見えた。


「支払い宜しくねー!」

「滞納ハ駄目デスヨー!」


 ドウセツは小さくなった僕達を見つけてがっくりと肩を落とした。


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