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――メタリックモンスター
金属の特徴を持つモンスター。
通称メタリックなアイツ。
如何なる種族においても極々稀に発生し得る変異種。
魔法が効かず、非常に堅い。
経験値激高。
それ以外は元の種族と変わらない。
出典 モンスターパーフェクトガイド~大丈夫、冒ギルの攻略本だよ~
「キター!!」
「ド、ドウシタノデスのえるサン。気デモ触レマシタカ」
失礼な事を言うジャックは無視し、後ろを振り向く。
「イロハ、動けるか!?」
僕の問いかけに、ゾラさんが答えた。
「先ほど魔力回復ポーションを飲ませました!じきに動けるようになります!」
魔力回復ポーションは、その名の通り魔力を少しだけ回復する高級アイテムだ。回復量は服用者の総魔力量に比例するので、イロハのような魔力の少ない者には正直勿体ない。
「ふおぉ、ふっかーつ!」
イロハが握りこぶしを作って立ち上がった。
「イロハ、あれ見えるか?」
「んっ?」
イロハがごしごしと目元をこする。
「何だか色が変な気が……まさか!?」
「そのまさかだ!メタリックモンスターだよ!」
「何デシタッケ、ソレ?」
「ほら、ポーリさんの言ってた経験値激高の!」
「レアモンスターでゴザル!」
「アア~」
ジャックは手をポンと打ち、
「めたりっくすけるとんモイルノデスカネ?」
と、どうでもいい事を口にした。
「イロハ、レベルは?」
イロハは首にかけた冒険者カードを確認した。
「まだ上がってないでゴザル……」
「じゃあイロハ、君が仕留めるんだ」
「拙者が、でゴザルか?先輩は助けてくれないのでゴザルか?」
不安げなイロハ。
「大丈夫、もちろんフォローする。でも倒すのはイロハだ。レベルを上げて冒険者を続けるのだろう?」
僕の言葉に、イロハの瞳に決意の光が宿る。
「やってみるでゴザル!」
イロハは腰の短刀を抜き、構える。
僕とジャックは逃がさぬよう、少し遠巻きに囲む。
メタリックなアイツは、僕達の様子に気付き威嚇してきた。
「ギュイッ!ギュイイッ!」
アイツが僕の方を見た瞬間に、その背中側に俊敏な動きで回り込むイロハ。
「せいっ!」
通常のマタンゴであれば確実に仕留めたであろう一撃は、アイツには傷1つ与えられなかった。
僕には攻撃を弾かれた、というより攻撃が滑ったように見えた。
「ふぐっ、なんのこれしき!ていっ!」
攻撃を往なされる形となったイロハだが、両足を踏ん張り再度攻撃を加える。
しかし、その攻撃もぬるりと滑った。
メタリックなアイツは、この敵は自分にダメージを与えられない、と理解したようだ。ちっちゃな口の両端がつり上がる。
「イロハ、諦めるな!」
「頑張レいろはサン!」
僕達の応援に、イロハは己を奮い立たせた。
「拙者はやれば出来る子でゴザル!」
そしてイロハは攻撃を続けた。
何度も。
何度も何度も。
しかしメタリックなアイツの肌には、わずかな傷さえも付ける事は出来なかった。
「はぁ、はぁ」
息切れし、肩を上下させるイロハに対し、アイツは寝転がって肘枕の体勢になっていた。完全にナメられている。
「こなくそー!」
それを見たイロハは、顔を真っ赤にして滅茶苦茶に短刀を振った。
ああ、これは無理かな。
そう思って止めるタイミングを見計らっていた時。
キイィィン、と硬質な音が響いた。
メタリックなアイツは、そのちっちゃな口を縦に大きく開き、驚愕の表情を作る。やがてその表情は、横に真っ二つに切り裂かれた。
「エエッ!?」
「何が起きた!?」
僕とジャックが状況を理解出来ないでいると、イロハが頬を紅潮させながら振り向いた。
「……やった。やったでゴザル!ついに、ついに拙者も『首切り』が発動したでゴザル!!」
「首切り?」
僕が首を捻りながらジャックを見ると、彼も首を捻っていた。
「『首切り』は忍者特有のクリティカルでゴザル!発動すれば文字通り一撃必殺なのでゴザル!」
「……またんごニ首ナンテアリマシタッケ?」
「首無くても首切っちゃうのが『首切り』でゴザル!細かい事を気にしてると器の大きい人間になれないでゴザルよ、ジャック殿!」
「人間辞メテルノデ、ソレハイイノデスガ」
「興奮してるとこ悪いけど……レベルは?」
僕の問いにハッとしたイロハは、慌てて首にかかった紐を手繰る。
「……上がった!上がってるでゴザルぅ!!」
イロハはぴょんぴょんと跳びはねながら喜んだ。
「ちょっと止まってイロハ。見せて見せて……止まれったら!」
ようやく動きを止めたイロハの冒険者カードを、僕とジャックは覗きこむ。
「オオッ!れべる8!」
「一気に倍でゴザルよ!?嬉しいでゴザル!感無量でゴザル!」
僕は、忍者でなければ更に倍くらいレベル上がったのだろうなあ、などと考えていたが口には出さなかった。
「あの~」
後ろからゾラさんが声をかけてきた。
「差し支えなければメタリックマタンゴの死骸を譲って欲しいのですが」
そういえば学者さんだったな。研究対象にでもするのだろう。
「倒したイロハが決めていいよ」
「拙者でゴザルか?」
一瞬たじろいだイロハだったが、すぐに結論を出した。
「お譲りするでゴザル!ゾラさんのポーションが無ければ倒せていないでゴザルから!」
「おお、感謝致します!」
メタリックマタンゴの死骸は触ってみるとゼリーのような触感だった。その色と相まって、まるで液体金属のような感じだった。
ゾラさんが運ぼうとするのだが、持とうとしてはぬるり、抱え込もうとしてはぬるり、と悪戦苦闘している。
ゾラさんは困ったように僕達を見るが、正直あまり触りたくない。ジャックも持ちたくなさそうだ。
「仕方ない、僕が持つよ」
「オ待チ下サイ、ぽーたータル私ガ持チマショウ」
「いや、ジャックはずっと戦闘だったろ?僕が持つよ」
「のえるサンコソ、『ふぁいやーすとーむ』ヲ何度使イマシタ?私ガ持チマス」
「僕が」
「イヤ私ガ」
「……では拙者が」
「どうぞどうぞ」
「ドウゾドウゾ」
「ええっ!?」
結局、『フロート』をかけて蹴りながらノクト村へと帰るのだった。