67
「というわけで第1回作戦会議を開催します」
「はいっ!」
「ハイ!」
「げこっ!」
会場は我が家のリビング。
参加者は僕、ジャック、イロハ、おまけでルーシー。
「議題は『手軽に沢山の経験値を得るには?』です」
「げこっ!」
「はい、ルーシー君」
「わかりません!」
「……じゃあ手を上げなくていいからね」
「はあい!あっ、げこっ!」
注意されてもルーシーは満面の笑みだ。
楽しそうで何より。
「まずは証言をまとめましょう」
普段予定を書くのに使っている小さな黒板をテーブルの上に置いた。
「効率よく経験値を得る方法として得られた証言は」
黒板の予定を消し、書き込んでいく。
「強敵を倒す、寄生、道場、と」
「ハイッ!」
「はい、ジャック君」
「多数ノ敵ヲマトメテ倒ス!」
「そうだね。スケルトンブーメランでは3つもレベル上がったし」
それを聞いてイロハは目を輝かせた。
「3つも!?それにスケルトンブーメランとは何でゴザルか!?」
「スケルトンブーメランってのは投擲攻撃だね。ジャックに魔法を……」
説明しようとするとジャックがカタカタ震え始めた。
「嫌ダ嫌ダ嫌ダ」
「今回は使わないから大丈夫だよ、ジャック」
「……ホントデスカ?」
「あれはジャックが倒してるわけだから、肝心のイロハの経験値にならない」
「ハッ、ソウカ」
「見れないのでゴザルか?残念。拙者も投擲攻撃出来るでゴザルよ?」
「ほう」
そう言えばイロハの実力をまるで知らない。後で見せてもらうか。
「ではそれぞれの方法について意見は?」
「はいっ!」
「イロハ君」
「寄生は止めた方が良いでゴザル!」
「ま、そうだね」
「異論ナシ」
「いろんなし!」
僕は黒板の寄生の字を消す。
「えー、個人的には強敵も消していいと思います」
「何故でゴザル?」
「単純に、危ないので」
今まで名前付きに代表されるような強敵と戦った経験はある。が、僕の実力で倒したと言える戦いは無い。仲間あってのものだ。
今回は僕とジャックとレベル4のイロハだけ。どう考えても危険だ。
「そう言えばイロハ、2ヶ月かけてレベル上げたと言ってたけど。どこで上げたの?」
「ドワーフの御仁が言ってたレイロアンヒーローでゴザル」
「やっぱりか」
レイロアンヒーローとは大門2階にいる、よくわからないゴースト系のモンスターだ。
特徴としてはゴースト系でありながらあらゆる攻撃が効く、まともに攻撃してこない、倒しても1時間程度でまた現れる、という正しく道場の名に相応しいモンスターである。
駆け出し冒険者にとってはとても助かる存在で、故にレイロアの英雄、もしくはレイロアの良心と呼ばれている。ちなみにレベル2桁以上の冒険者が攻撃すると、凄まじい勢いで反撃してくる。
「何回くらい戦ったの?」
「毎日5回以上は戦ったでゴザルから……最低3百回でゴザル」
「根気アリマスネエ」
「それくらいしか出来なかったでゴザルから」
イロハは肩を竦ませた。
「レイロアンヒーローでは当然間に合わない」
「ト、ナルトれいろあんひーろー以外ノ道場、モシクハ多数ノ敵」
「考え方としては両方かな」
「両方、でゴザルか?」
「要は多数の敵が頻繁に出る所?」
「あー」
「ナルホド」
「では早速ギルドの閲覧室へ調べに行くでゴザル!」
「閲覧室!久シク行ッテマセンネ」
「えつらんしつー!」
「待って待って」
早くもイスから立ち上がりギルドへ向かおうとするイロハを止める。
「先にやっとかないといけない事がある」
「ほっ?」
「げこっ?」
「何デス?」
「イロハの実力見とかないと狩りのターゲットも選べない」
「ソレハ確カニ」
「ならば拙者の実力、とくとご覧下され!」
イロハはむん、と両手に力を込めて宣言した。
そのまま3人で我が家の庭へと回る。まだ日が出てるのでルーシーは窓から観戦だ。
「では、先ほど話した投擲攻撃から見せるでゴザル」
そう言うとイロハは懐から短刀を2本取り出した。
「投擲用のダガー?」
「これは苦無という万能短刀でゴザル。投擲以外にも紐を通してロープを渡したり、壁に突き立てて登ったりするのにも使うでゴザル!」
「ほほぉ~」
斥候役たる忍者に相応しい武器なんだな。
「サニー、葉っぱを少し落としてくれる?」
「ン……ワカッタ……」
サニーがその大きな体を震わせると、数枚の葉がひらひらと落ちてきた。
「では、参る!」
2本のクナイを両手にそれぞれ構えたイロハ。表情からは集中しているのがわかる。
「ていっ!ていっ!」
トスッ、トスッ。シュタタタッ。
「ふう、ていっ!ていっ!」
トスッ、トスッ。シュタタタッ。
狙いは正確で、舞い落ちる葉を見事に捉えている。
それは良いのだが……
「ちょ、ちょっと待って」
「何でゴザろう?」
「いちいちクナイを走って取りに行くの?」
「もちろんでゴザル」
「それは止めた方が良いんじゃないかな。スペアを幾つか用意しておいた方が」
「じゃあ投げたのはどうするでゴザル?」
「敵に投げたなら使い捨てかなあ」
「それは勿体無いでゴザル!」
しかし敵に刺さったのを戦闘中に取りに行くのか?どう考えても不都合が多いような。
そんな事を考えていると、ジャックがオイオイと泣き真似を始めた。
「変ワッテシマッタ……のえるサンハ変ワッテシマワレタ」
「何だよ突然」
「最初ノぱーてぃト別レテスグノ頃ノのえるサンハソンナ事言ワナカッタ」
「いや、だから何を言って」
「食ベル物ガ無クテ、ぱん屋ニぱんくずヲ分ケテ貰ウ日々……」
「そりゃあの頃はさ」
「魔法石わごんせーるデ掘リ出シ物ヲ見付ケテ、『今日は具のあるシチューだ!』ト小踊リスルのえるサン……」
「おい馬鹿、止めろ」
人の黒歴史をペラペラ喋るんじゃない。ほら、イロハが少し涙ぐんでる。
「古物商デばいとヲ始メテ『僕の天職って買い取り業者なのかな……』と呟クのえるサン」
「うりゃっ!」
「グエッ」
僕は園芸に使っているシャベルを振り抜いた。
「何テ事ヲ!ホラ、チョット欠ケテル!」
「僕はちょっとどころじゃなく傷付いたよ!」
ジャックと言い争っていると、ローブの裾をクイクイと引っ張る感触があった。
「ゼンバイも苦労じだでゴザルな~」
裾を持って顔をグシャグシャに汚したイロハが立っていた。
感受性強すぎるな、この後輩。